山添村巨岩&奇岩探索

2018年6月3日(日)


以前から気になっていた奈良県山添村に出掛ける。山添村に点在するイワクラ(磐座)と呼ばれる巨岩・奇石は、古代に存在した巨石文明の痕跡との伝承もあるらしい。村の観光協会が発行している「イワクラMAP」には17ものイワクラが紹介されているが、時間が許す限り探索してみたい。



まずは、標高618mの神野山を中心にした自然公園「フォレストパーク神野山」にやってきた。多くのイワクラが集中しているところで、巨石に神が宿るとの古代信仰に基けば、まさに「神の山」と言える。神野山の東の山麓にあるのが「鍋倉渓」。黒々とした岩が約650mに渡って川のように並んでいる。



この岩石群は、昔、伊賀の天狗が喧嘩相手の神野山の天狗に向かって投げつけてきたもの、との民話があるそうだ。そのせいか、鍋倉渓の入口付近には、カラス天狗の人形が何体も設置されていた。



一方で、古代の縄文人が岩を天の川に模して並べたものとの大真面目な説もあるようだ。神野山に存在する巨岩が、北極星、白鳥座のデネブ、こと座のベガなど、天空の星と同じ位置関係に並んでいることが判ってきたらしい。



鍋倉渓の形成過程に関して素人がまず思いつくのは、山の上から水の流れにのってゴロゴロと転がって出来たきたものではないか、ということ。しかし、鍋倉渓が途切れた先には、あの鍋底の焦げにも似た黒い岩は全く見当たらない。アチコチに点在する岩も、まるで異なった種類だ。何とも謎めいている。



天狗岩。イワクラ伝説によれば、わし座のアンタレスに相当する巨岩だ。これって、当世流行のミステリースポット&パワースポットだと思うのだが、訪問者の姿はほとんど見られない・・・。



そこそこの山道を登り切り、神野山の頂上にたどり着く。一等三角点と展望台がある。



あいにく空は少し霞んではいるが、南大和の山々が折り重なるように連なっているのがよく見える。眺めもいいうえに、風がいい感じに吹いていて、展望台の上は実に気持ちいい。他に人がやってくるまで、およそ20分近くも展望台を独占できた。



頂上付近にある王塚。白鳥座のデネブに相当するというが、古墳でもあるようだ。鳥居はあるし、石仏はあるし・・・。時代の変遷とともに、この地に種々の信仰が重なり続けてきたのだろう。天との交信のための祭祀の施設に違いないと考える人たちもいるようだ。



山頂付近では、大きな網を持って熱心に蝶を採集しようとしている人がいる。コレクターなのか、研究員なのかは判らないが、特定の蝶を探しているように見える。神野山ではクロシジミなどかなり珍しい蝶も発見できることでも知られているらしく、蝶の撮影を試みたが、そう簡単に珍しいものが撮れるはずもない。



山頂から南に下り、神野寺を目指す。少し山を下ると、茶畑が広がっている。つい最近、茶葉が摘まれたばかりのように見える。岩がゴロゴロしていた東斜面とは随分景色が異なる。



山の何ヶ所かに、「こうのやまスタンプラリー」と書かれた木札が掛かっているのだが、スタンプは見当たらない・・・。特定の日にイベントがあるのかもしれない。



神野寺。例によって行基の開基だ。いったいこれまで行基開基のお寺をいくつ訪問しただろうか。調べてみると、驚くことに畿内を中心に600ほどもの寺が行基によって開かれたとされているらしい。




神野寺から少し下ったところにある弁天池。黒くて小さいものがウジャウジャと蠢いている。よく見るとオタマジャクシ。孵化してからまだ間もなさそうだ。もう何十年も見ていなかった光景だ。小さな池に少なく見積もっても千匹はいるようだが、すべて蛙になるのだろうか・・・。



神野山の南側から、登ってきた道を横切って、北側に出て、比較的緩やかな道をのんびりと下っていく。目指すは、「めえめえ牧場」だ。



広大なめえめえ牧場には、白いフワフワした毛で覆われたニュージーランド原産のコリデールと、顔と足が黒い英国原産のサフォークの2種がいる。前者が羊毛用途、後者が食肉用途だ。依怙贔屓はいけないけれど、コリデールの方が圧倒的に可愛い。



羊せんべいなるものが売られていて、自由に羊たちに餌を与えることができるようになっている。奈良県だけに、鹿せんべいと同じものではないか、と勘繰ってしまう。見た目も同じだ。まあ、同じだとしても何も問題はないのだろうけど・・・。



神野山の巨石散策を終え、次なる巨石を求めて、山添村の北西端にある布目湖の傍にある牛ヶ峰岩屋枡型を目指す。地図では湖の周回道路からさほど遠くないところのように見えたが、地元の人によると20分くらい山を登ったところとのこと。想定外だが、ここまで来たら登るしかない。



山を登り始めて20分ほどしたところにある小さな池の脇の枝に、白い泡状の物体がいくつも付着している。どうやら、モリアオガエルの卵のようだ。水中に産卵する通常の蛙と異なり、泡でくるんだ卵を水辺の枝に産み付けるという。何とも薄気味悪いものだが、モリアオガエルは奈良でも絶滅寸前とのこと。随分珍しいものに出会ったということになる。



池のすぐ先に巨石が現れた。ここに来るまでも巨石はいくつも目にしてきたが、これはかなりの大物だ。6m×13m×6m、585トンと説明板にある。岩肌には弘法大師が彫ったと言われる大日如来像が見える。



小さな岩の上に乗っかっているため、巨石の下部には空洞があり、石仏や石塔が納められた「岩屋」となっている。内部を観察しようと、足を一歩踏み入れたところ、何羽もの蝙蝠が「入るな」と言わんばかりに飛び交い始めたのには仰天させられた。



さらに数十m登ったところに、「枡型」と呼ばれる、さらに巨大な岩が鎮座している。16m×14m×7m、重さは2000トンほどもある。下の「岩屋」は、この枡型の一部が割れて落下したものなんだそうだ。岩屋の大日如来を彫った弘法大師の鑿と槌が、この巨岩に収められているという。



枡型の上部にはわずかな土の厚みしかないのに、随分立派に樹木が育っている。一体根っこはどうなっているのだろうか・・・。存在するだけでも不思議な力を感じてしまう巨岩を信仰する気持ちが少し理解できたように思う。



最後は「長寿岩」。ある程度の山登りは覚悟して向かったが、なんと車道の真ん中に鎮座していた。隣に見える「ふるさとセンター」の建設の際の造成工事で出土したものなんだそうだ。と言われるとあまり有難味が感じられないが、直径7mの球体に、赤道と子午線に似た筋がある。これまたミステリアスな物体だ。



途中昼食を取った神野山の麓にあるレストラン横の展望台では、「首都機能を大和高原へ」とアピールしていた。東京一極集中には反対だが、このミステリアスな地域が妙な開発の対象になるのは止めてもらいたい気分だ。



山添村には公共交通機関で行くことは容易ではなく、今回は車を使っての巨石巡りとなった。さらに結構歩いたつもりだが、訪れることができた「イワクラ」は、マップに紹介されていたうちの半分程度に留まった。