中山道(10)(横川~軽井沢)

 2025年4月22日


中山道屈指の難所、碓氷峠を越えて信州へと向かう。今回の遠征は3日を予定しているけれど、いつものように初日に頑張り過ぎて2日目以降に疲れを積み残さないようにしたいものだ。横川駅を出るとすぐ碓氷関所跡が現れるけれど、西門が残るだけでちょっと寂しい。



かつては車両下部とレールの歯車を嚙み合わせて急勾配の碓氷峠を越えていたという信越本線。新幹線開業に伴い、横川~軽井沢は廃線となり、役目を終えた車両などの展示もされている「鉄道むら」がある。とても興味があるんだけれど、今回はパスだ。



廃線跡を歩いて廃トンネルや廃鉄橋を巡るアプトの道というものが整備されている。この道を歩いて軽井沢に行くこともできるようだ。メチャクチャ魅力的だけれど、今日は愚直に中山道を歩こう。いつか再訪してみたいところだ。



舗装道をしばらく歩いていくと坂本宿に到着。碓氷峠直前の宿場町だ。名物の力餅などを食べてここから始まる急坂に備えたに違いない。



宿場町を貫いていた中山道は今では国道18号線となっている。道の拡幅の影響のせいか、宿場町らしい風情はあまり感じられないけれど、それっぽい建物もいくつか見られる。




少し遠回りして、かつてのトンネル跡をひとつ見に行く。アプトの道を進めば、こんなトンネルを10ほど、さらに日本最大級と言われる煉瓦造りの4連のアーチ式鉄道橋、通称めがね橋を歩けるのだ。いつの日か、アプトの道は是非とも歩いてみたいものだ。



楽しそうで平坦なアプトの道への未練は断ち切って、いよいよ碓氷峠に向かう山道へと入っていく。整備された道とはいえ、勾配は厳しく、道幅も狭い。気温は20度以下のはずだけれど、薄暗い杉林を進むうちに、汗が噴き出してくる。



刎石山へと向かうにつれ、路面には鋭利な石がゴロゴロ転がる道となる。崖には典型的な柱状節理も見られる。この辺りは浅間火山帯の一部のはずだ。溶岩がゆっくりと冷却されると規則正しい節理を持つ岩になることがあるらしい。



桜の木の間に、先ほど歩いてきた坂本宿と町を真っすぐに貫く中山道が良く見える。標高400mほどの横川駅から結構急坂を登ってきたつもりだけれど、まだ標高は800mにもならない。1200mの碓氷峠までは未だ未だ登らなければならない。



刎石山の手前にようやく小さな東屋。中山道の登り口にあったっきり、休憩場所が無かったので、長々と休息させてもらう。箱根、鈴鹿、笹子など、難所と言われる街道の峠をいくつも越えてきたけれど、碓氷峠が一番キツイかも、と感じ始める。



堀切の跡。信州からの武田信玄の侵攻に備えて北条氏が築いたものらしい。碓氷峠はいわゆる片峠。信州からはさほどの登りではないけれど、上州からはかなりの登りとなるだけに、信州からの侵攻は比較的容易だったのかもしれない。



刎石山を越えると、杉林からブナ林へと変わる。薄い葉を通しての木漏れ日のおかげで道が急に明るくなったように感じる。驚くことにすれ違った軽井沢から横川へと歩く合計30人ほどの8割ほどは外国人だ。こんな山中の道まで海外に紹介されているようだ。



尾根から少し下がったところに道は造られている。尾根道を歩く方が気持ち良さそうにも見えるけれど、風のことなどを考えれば、尾根に遮られたところを歩くのが最も安全だったのではなかろうか。



安政遠足の標識がところどころに見られる。安中からこんなトコまで走ってくるなんて…。ゴールの碓氷峠まで距離は29㎞ほどとはいえ、ずっと上り坂なのだ。5月に大会があるらしいけれど、練習をしているのだろうか、走っている人の姿も見かけた。



見かけない虫に出会い長らく観察する。どうもカメムシの仲間のような気がして調べてみると「歩く宝石」と呼ばれるアカスジカメムシの5齢幼虫らしい。なんと5度も脱皮を繰り返して、光沢を持つ緑色の成虫になるらしい。幼虫と成虫でははまるで色が異なる。



もともと碓氷峠までの道にはいくつかの茶屋があったというが、今では刎石山以降、ベンチさえ見当たらない。が、碓氷峠に近づくにつれて廃屋(廃別荘?)がチラホラ見える。どこから乗り入れたのかは謎だけれど、廃バスの姿まで見える。



ついに碓氷峠。長野・群馬の県境には熊野神社と熊野皇大神社が並んでいる。碓氷峠で濃霧のため道に迷った日本武尊を導いた八咫烏の伝説が残る古社だけれど、どうやら宗教法人登録の際、やむなく両県それぞれに登録する必要があったため二つの神社に別れたらしい。



参道の真ん中に県境の表示がある。ふたつの神社の社殿は一体なのだけれど、社務所もお守りの授与所も賽銭箱も別々に設置されている。



熊野神社の向かいにある茶屋「しげの屋」。350年前から中山道を行き交う旅人の疲れを癒してきた店だ。こちらも長野・群馬両県に跨るように立っている。



本来は碓氷峠に登る前に食べるものだろうけれど、元祖力餅を碓氷峠頂上で頂戴する。力餅は、あんこ、きなこ、ごま、くるみ、大根おろし、みその6種類。全部食べたかったけど、アソートは無いようなので、くるみを頂戴した。8つをあっという間に平らげてしまった。



碓氷峠から軽井沢へは「旧碓氷峠遊覧歩道」と名付けられた道を進む。クマ注意の警告に従って熊鈴を鳴らしながら、軽井沢に向け下っていく。遊覧歩道とはいうけれど、そんなに呑気でも楽しい道でもなく、とても曲がりくねった、誰とも出会うこともない寂しい道だ。



碓氷峠から遊覧歩道を3㎞ほど歩くと、別荘が多数見られるようになり、さらに進むと少し宿場町の風情のある街並みが現れるけれど、その多くは中山道の宿場町なんてことに何の興味も無さそうな観光客向けの飲食店や土産物店だ。



脇本陣江戸屋。実際に脇本陣だったところらしいけれど、今はCafe & Wineのお店だ。まあ仕方ないとも思うし、脇本陣江戸屋という店名だけでも残っていることだけでもヨシと考えるべきだろう。



軽井沢の標高は950m。麓よりは数度気温が低いはずだ。麓ではとうに散ってしまった桜が、ここでは満開だ。



距離16.9㎞、獲得標高1095m。所要時間は9時間ほどだけれど、ゆっくり休憩しながら歩いたせいか、さほど疲れはない。もっともこの日のために購入し、試し履きもしてきたはずの靴が、少しキツく靴底も薄く感じられ、足裏にイヤな痛みが残る。明日以降が心配だ。