氷ノ山(養父市)

2020年10月31日


兵庫県の最高峰、氷ノ山に挑戦する。1500m超の登山なんて40年以上ぶりのことだ。やまクエでの難易度LV40の鉢伏口周回コースは、今の体力・技術の限界レベルだろう。往路は福定から氷ノ山越え、復路は東尾根を経て最後はブン廻しコースで福定に戻る計画だ。



幸いにも絶好の晴天。右の山から入り正面の山々の稜線を歩いていく。目的の氷ノ山は左奥に聳えているはずだ。それにしても人が多い。駐車された車の数から察するに少なくとも200人は既に入山していそうだ。こんなに混みあう山に登るなんて久しくなかったことだ。



福定から30分ほど舗装道を歩いたところにある福定親水公園から本格的な登山道が始まる。杉の木立のなかを快調に進んでいく。昨日の滝巡りの疲れは残ってはいるが、体調は悪くはなさそうだ。



布滝にちょっと立ち寄り、山道をガシガシと登っていく。濡れ落ち葉が道を覆っていて滑りやすい。特に足のサイズにピッタリと合うほど大きな棒葉の枯れ葉などに足を乗せたものなら、そのままスケートボードのように滑っていきそうだ。



氷ノ山遭難者の冥福を祈願するお地蔵様が立っている。雪山登山ばかりではなく、一年中様々な事故や遭難が発生しているところだ。この後の山行の安全を願って合掌する。



連樹というものがある。朴ノ木の老木を中心に、ミズメ、コシアブラ、リョウブ、ネジキ、ナナカマド、マツブサが絡み合っている。七種類の樹木がひとつの樹として支えあっている。



地蔵堂がある。トタン板造りの小屋に三体のお地蔵様が安置されている。粗末なものかもしれないが、吹き曝しのお地蔵様を憐れに思い、地域の方が苦労してトタン板を運び込んでこられたのだに違いない。



深い沢を渡る。垂直に近い角度に設置された鉄梯子で上り下りする。今回のコースでは唯一の渡渉箇所だ。



色づいたブナ林が美しい。氷ノ山はブナの原生林が多いところだ。ブナの葉は薄いので、とても柔らかな陽射しが差し込んでくる。黄色い葉は光を受けてキラキラと輝いている。



有難いことに水場があり、柄杓も置かれている。氷ノ山から湧き出る清水で喉を潤す。水場を当てにして担ぐ飲料を減らすことはないけれど、水場があれば貴重な飲料を節約できるのでラッキーと思う。しかし最近は、山の水には見向きもしない人が多いように感じる。



福定親水公園から登り続けて1時間50分で氷ノ山越の避難小屋に辿り着く。整備された登山路ではあったけれど腰を下ろす場所がなかったので、避難小屋でちょっと休憩できると期待していたのだけれど、既に大勢のハイカーに完全に占拠されている。



腰を下ろしての休憩は諦めて再び歩き始める。ここまで来るとようやく氷ノ山の頂上が視認できるようになる。体は疲れているはずだけれど、気分は高揚してくる。



山だというのに、やけに丸っこい石が多い。明らかに火山岩だが、どこでこんな風に摩耗したのだろうか。山上からの水に流されたり転げ落ちたりしながら丸くなったのだろうか。



滑りやすい道が続く。濡れた土も滑るし湿った岩も滑る。いつもなら頼りなる木の根っこも滑る。安心して足を置けるところが無いのだ…。登りは良いけれど、下りは相当大変そうだ。既に山頂を制覇したハイカーが苦労して下山してくる。



足元は悪いけど、眺望は最高だ。向こうに見えるのが鉢伏山。ハチ高原のスキー場が広がっている。その手前にここまで歩いてきた道がくっきりと確認できる。



頂上手前、登山路の正面に聳える甑岩。ロッククライミングを挑む人の姿が見える。若い女性もキャーキャー言いながら登ろうとしている。白髪山の岩場程度で足が竦んでいるくらいだから、甑岩など登れるはずもない。遠回りでも巻き道を安全に進んでいく。



いよいよ山頂の小屋の屋根が見えてきた。笹の中を突き抜ける長い木道の急坂を最後の力を振り絞って登っていく。



山頂に到着。登り始めた福定親水公園からの所用時間は3時間40分。標準時間を少しオーバーしているけれど上出来だ。それにしても覚悟はしていたものの山頂は大混雑。座りこむところもなく、昼食のおにぎりを立ったまま頬張る。山頂碑を撮影することさえできない。



頂上では360度パノラマの眺望が広がる。遠くに霞んで見える尖がった山頂は、おそらく間違いなく中国地方の最高峰、霊峰大山だ。中国地方視点で言うならば、氷ノ山は中国地方で標高第2位となる。山頂は兵庫県と鳥取県の県境になるのだ。



座るところはないし、うるさいし、料理の匂いは立ち込めるし、あまりの人の多さに辟易とし早々に頂上から退散し、東尾根コースから下山する。覚悟はしていたけど、道は滑りやすく尻もちをついてしまう。足腰には相当疲れが溜まっているようだ。



苦労して坂を下り、神大ヒュッテまでやってきた。看板には神戸大学氷ノ山体育所とある。体育所とは謎めいたネーミングだが、教育施設としなければ予算が下りなかったんじゃなかろうか。登山開始後4時間ほども立ちっ放しだったが、ようやく腰を下ろして休憩を取る。



ありがちなことだけど、なまじ休憩を取ると、体内に潜んでいた疲労がどっと噴出してくるように思える。休憩の後、歩き始めるが、それまでよりも足腰はスムーズに動かない。なぜだかJ字型に曲がった不思議な木が並ぶ下り坂を重い足取りで進んでいく。



狭い道なので後続のハイカーに道を譲れるところがない。逆に後続に迷惑を掛けまいと無理な速足になる。ついに一の谷の水場を過ぎたトラバースの浮石で派手に転倒してしまった。起き上がり損ねると谷に落ちかねない激ヤバな場所で倒れこんでしまう。

有難いことにすぐ後ろを歩いていたハイカーに支えてもらい無事立ち上がることができた。幸い出血も捻挫・骨折も無かったけれど、右肩打撲と右中指の軽い突き指、そして何故だか左目のあたりも転倒の拍子にどこかに打ち付けてしまったようだ。

助けていただいたハイカーさんにお礼を申し上げ、再び歩き始めたがさすがに気力は大幅にダウン。一の谷の休憩所で地面に座り込み、右肩は大したことはないが、アルコール消毒をしたところ顔の傷がメチャクチャ染みる。出血はないけれど、ちょっと腫れそうだ。



一の谷から先は、牛歩のごとくノロノロ歩きになる。体力はともかく、転倒による精神的ダメージが大きい。期待していた紅葉は数日前にピークを終えたようで、ごく一部のドウダンツツジが赤く染まっている。



注意してゆっくり歩いていたのに、東尾根避難小屋の手前で再び軽い尻もちをつく。ズボンはドロドロだ。避難小屋を過ぎると、杉林のなかを下る急な丸太階段が待ち構えていて、さらに足取りは重くなる。



急坂を下り切ると、スキー場が広がる。ここから福定親水公園を経由せずに直接福定の町に下りて行く道を行くつもりが道に迷ってしまう。リフトに沿って道無きゲレンデを下りていくが、川を渡れる橋が見つからない…。



ゴールはすぐそこだというのに、アチコチと徘徊する羽目になる。ヘトヘトだというのに、最後になって無駄に数十分ほども歩き回る。なんとも情けない歩行軌跡(水色)が記録されている。



色々とあったけれど、大きな事故に至らず下山できたことを素直に喜びたい。終盤の道迷いで歩行距離は予定を1㎞上回る13㎞、所用時間もまさかの7時間超になった。



標高1500m超の氷ノ山を制覇したとはいえ、山登りの自信は逆に揺らいでしまった。やはりLV40の壁は高い。休憩不足などいろいろと言い訳はできなくもないけれど、3度も転ぶなんて体幹の衰えを痛感せずにはいられない…。

天滝(養父市)

 2020年10月30日 ③


シワガラの滝、猿尾滝に続き、本日3つめの滝、養父市の天滝を訪問する。ここはちょっとしたハイキングコースになっているようで、1.2㎞先の天滝までの標高差は約200m、所用時間は40分と案内されている。時刻は間もなく16時だ。しかも小雨が降っている。



山の日暮れが早いのは判っているが、左手にビニール傘、右手に登山口にあったお助け杖(スキーのストック)、頭はヘッドライト、という不格好な出で立ちで渓流沿いの山道を登り始める。すれ違う人達からの、その恰好で今から行くのぉ?という冷たい視線を感じる。



道はどんどんと登っていく。歩き始めたときには道の横にあった渓流が随分と下に見えるようになった。なかなかの景色が続くけど、とにかく先を急ぐ。できれば17時には下山したい。



が、油断できない道が続く、しっかりと柵もあって、注意すれば何ともない道なんだけれど、このように急いでいるときこそ心に隙が生じるものだ。それにシワガラの滝から始まった滝巡りで、足腰にも結構疲れが溜まっているはずだ。



目的の天滝までの間にも、大小の滝がいくつもあるのだけれど、ちらりと横眼で確認するだけで先を急ぐ。



滑落注意の標識がやけに多い。ただでも路面が濡れていて滑りやすいが、この季節の濡れ落ち葉はさらに要注意だ。



急な下り道もある。写真で見返すと結構危なっかしいところに見えるんだけれど、実際は通常ならばそれほど危ないものとは感じないレベルだったはずだ。でもこんな時にこそ事故は起きるものだと何度も自分に言い聞かせて緊張感を保ち続ける。



自分なりの最大スピードで歩き続ける。油断できない坂道や橋などが続くが、さほどの急坂もなく、息切れするほどのことはない。



天滝の前衛滝群の最後になる鼓が滝が現れた。あと一息、のはずが、ここから延々と登り階段が続く。



階段で息があがりそうになったが、所要時間30分弱で天滝を望む展望台まで登りきることができた。想像以上に大きな滝で、携帯カメラを思いっきり広角にしてもフレームに収まりきらない…。



角度を変えて見るとさらに滝の水流の勢いが感じ取れる。パンフレットには紅葉を背にした滝が掲載されているが、残念ながら未だ色づき始めたばかりのようだ。11月3日には「天滝もみじ祭り」が予定されているようだけど、大丈夫かぁ?



滝の下部の水が幾筋にも分かれて落下していく様が特に美しい。滝を巡って思うことだけど、静止画では滝のダイナミックさを再現するのに限界があるなぁ…。実際の滝は写真の何十倍も荒々しく力感に溢れている。



展望台での滞在時間は5分ほどと僅かだったけど、天滝の力強さと美しさを満喫して16時半に下山する。日暮れまでは十分下山できそうだ。足元に注意しながら滝を後にする。



1日でシワガラの滝、猿尾滝、天滝と但馬地方の名高い滝を3つ巡る強行スケジュールをこなし満足感は高いものの、この地域には霧ヶ滝や猿壺滝など訪問できなかった名瀑はまだまだ多い。いつか再訪したいものだ。


猿尾滝(香美町)

 2020年10月30日 ②


シワガラの滝を訪問した帰路、香美町の猿尾滝にも立ち寄る。全国の滝百選のひとつにも数えられる名滝だ。



滝は国道9号線からすぐ近くとアクセスも良く、多くの観光客が立ちよるようだ。明るく開けたエントランスには歓迎の横断幕が掲げられ、駐車場や自販機、トイレなども整備されている。シワガラの滝とは対照的な立地だ。



顔出しパネルまである。殿様がサルに素麺を食べさせているという不可思議な絵柄だ。猿尾滝という名前(滝の形が猿の尾に似ている)と、かつてこの地を治めていた村岡藩主がこの滝で流し素麺を楽しんだという故事に由来した絵のようだ。



入口から歩いてすぐ、滝が見える渓流まで来ることができる。シワガラの滝の後では、なんともあっけない滝とのご対面だ。



猿尾滝は上下2段になっている。落差21mの下段の滝が猿の尾に似ているという。上段の滝は39mの高さだ。



滝壺近くの河原には、石積みがアチコチに見られる。賽の河原のようだ。何かの信仰によるものなのか、単なる遊びなのかは判らないが、誤って崩してしまえば何か良からぬことが起きそうだ。滝を楽しむにはちょっと迷惑な存在だ。



上段の滝を間近で見るべく階段を登ってきた。黒光りする岩肌全体を水が流れ落ちている。



上段から下段へと水が流れ落ちる様を恐る恐る思いっきり手を伸ばして撮影してみた。恐ろしいほどの急流だ。



上流の滝の岩肌には仏像などが見え隠れするという。どうやらこれは観音様らしいが、信心不足だろうか、どうもピンと来ない…。仏様やマリア様などもおられるらしいが、確認することはできなかった。



滝の右の大岩は岩猿と命名されているらしい。サルというよりゴリラ感が強い。



上流から下流に向かって水は猛スピードで流れている。今日の流速では流し素麺など到底無理だ。村岡藩主は室町時代には日本の六分の一となる11州を領有した山名氏の末裔だ。領地は往時の百分の一にも満たないが、それなりに細やかな楽しみを見つけていたのだろう。



シワガラの滝、猿尾滝の見物を終えたが、さらに天滝にも立ち寄ってみよう。(③に続く)