2025年10月24日
涼しくなってきて、久しぶりに中山道を歩こうと思っていたのだけれど、信州の山道を歩くなんて熊に襲われに行くようなもの…。ということで、名前と違って熊がいないという熊本にやってきた。高校の修学旅行で訪問したものの霧で何も見えなかった阿蘇山を目指す。
しかし阿蘇山に向かうにつれ、酷い霧で、車の運転さえ危ない状態となる。阿蘇山の火口を見学するとともに、内輪山の中岳などをトレッキングするつもりだったけれど、こんな状態では火口など見えるはずもなく、山に登れそうにもない。
取り敢えず標高1100mほどの噴煙展望公園までやってきた。ここに車を停めて、トレッキングを開始するつもりだったけれど、霧は晴れる気配もない。
止む無く有料道路を利用して、標高1200mの火口近くにある駐車場までやってきた。火口はとても見えそうには無いけれど、標高のせいか、時間経過のせいか、進む方向は霧が晴れてきた。どこまで行けるかどうかはわからないけれど、行けるとこまで行ってみよう。
これが砂千里というところのようだ。まるで月面のようなところだ。どうやらかつては火口だったところらしく、植物はほとんど生えていない。
砂千里には霧はかかっていないものの、進むべき方向の霧は濃い。天気予報では曇りなんだけど、霧が今後どうなるかまでは判らないのだ。
まずは南岳に向けての急登を進んでいく。水平距離で700m進むために250mも登らなければならない。しかも岩はゴロゴロだし、霧は濃いし、道もあるような無いような…。
濃霧のなかを登るところではないように思うけど、ハイカーの数は少なくない。その7割ほどは海外からやってきた人たちだ。少し話したところ、その多くは英国、ドイツなど、欧州から来られているようで、自国にない火山の登山に気分が高揚しているようだ。
岩は赤いところ、黄色いところなどがあり、とてもユニークだ。触ったり叩いたり、臭いを嗅いだり、長らく岩や地層の観察をする。実のところ、とても一気に登れる坂ではなく、腰を下ろして岩を見ながら休憩しているのだ。
もう全然前が見えない。足元だけを見ながら進むしかないんだけど、撤退すべきなのかもしれないと何度も思う。でも元気に登っていく外国人などを見ていると、ここで下山する訳にもいくまい、とゆっくりと進んでいく。
道など無いようなもので、崖も多く、間違った方向に進めば大変なことになるんだけど、幸い岩に乱暴に書かれた矢印を丁寧に辿っていけば大丈夫そうだ。もっとも霧が濃く、足元の矢印は見えても、次の矢印が見えない。
標高が上がっていくと、ますます奇妙な岩が登場する。土の色も赤い。どこか見知らぬ惑星を探検しているような気分にさえなる。
南岳の手前がまた凄い濃霧。時間もあるし、無理しても仕方ない。腰を下ろして、少しでも霧が晴れるのを待つ。調べてみると1㎞以上先が見えないのが霧、10㎞先が見えないのが靄というらしい。10m先が見えないのは何と呼ぶべきなのだろう。
かなり苦労して、やっとのことで南岳(1496m)まで登ってきたけれど、岩がとんでもなくゴツゴツしていて、座りこむところを見つけることさえ難しい。当然のことながら眺望は皆無だ。
南岳で長い休憩をしながら、もう十分、とは思ったけれど、この先さほどのアップダウンも無さそうなので、中岳までは縦走してみよう。
と歩き始めたものの、霧は相変わらず。何度ももう帰ろうかとの考えが頭を過るけど、下山するにしてもこの霧の中を突っ切る必要がある。眺望もないので、方向も判り難く、GPSとたまの標識だけが頼りだ。
霧のなかをひたすら歩いて中岳(1506m)山頂へ。やはり、何も見えない。晴れていれば火口まで見通せるらしいけれど、四方は霧に塞がれていて、どちらが火口方面なのかさえ分からない。
「火山性有毒ガス注意」の看板がある。気のせいかもしれないけれど、何か硫黄臭のようなものを感じる。周囲の白いガスが実は有毒ガスのような気もしてきて、何だか息苦しいような気分になってくる。
まだ正午前。ここから往復1時間ほどで阿蘇山最高峰の高岳まで行けるんだけど、もう十分。これ以上濃霧のなかを進む気になれない。濃霧の中の下山はかなり危なっかしく感じるけれど、矢印を見失うことなく、ゆっくり下っていこう。
迂闊にも躓いて左脚を岩にぶつけてしまった。深い傷ではないけれど、かなり出血してしまった。消毒液をかけていたら、ポーランドのハイカーが声をかけてきた。思い付きで富士山に登る外国人と違い、十分な装備とファーストエイドも携えていることに感心させられた。
ポーランドからのハイカーには大丈夫だ、と答えたものの、実のところ精神的・肉体的ダメージは小さくない。さらにゆっくりと山を下っていくと、いつの間にか霧が晴れてきて、遠くの山まで見通せるようになってきた。
砂千里にも少し立ち入ってみる。山の上とは思えない、サラサラした砂だ。海岸を歩いているのと変わらない。
振り返れば、南岳や中岳(たぶん)も見通せるほどに霧は晴れている。もっと遅い時間に登るべきだったとは思うけど、今更仕方ない。これくらい晴れていれば、山道も随分と違ってくるに違いない。
出発前は濃霧のため見送った火口見学に向かうが、なんと有毒ガス発生のため立入禁止になっている。なんとも間の悪いことだけど、待てば立入禁止が解除されるというものでもない。明日の予定を変えて、再チャレンジするかどうか考えながら帰路につく。
距離6.2㎞、登り獲得標高387m。休憩ばかりして所要時間は5時間強。勾配もきつく、濃霧や負傷もあって、コース定数11とは到底思えない辛い山行だった。

