2024年2月17日
スマホを電車に置き忘れてJR草津駅まで取りに行かねばならなくなりました。せっかくなので、三上山か安土城にでも行こうかと思ったけれど、以前目にした箕作(みつくり)山の縦走に決定。聖徳太子が爪で彫ったという摩崖仏がとても気になるのだ。
近江八幡駅から久しぶりに近江電鉄に乗車。経営は相変わらず厳しいようで、設備投資もままならないようだ。今も交通系ICカードは使えず、昔ながらの窓口で硬券を購入する仕組みが続いている。頑張れ近江電鉄。
近江電鉄の市辺駅をスタートし、しばらく進むと山へと入る道が現れる。道標には万葉歌碑と十三仏の文字がある。この十三仏こそ、聖徳太子が手元に道具が無かったので、爪で彫ったというものだ。眉唾ものの話だけれど、歴史ある摩崖仏を拝観できることが楽しみだ。
しばらく進むと、この地で詠まれたという額田王の「茜さす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖ふる」と大海人皇子の返歌「紫の匂へる妹を憎くあらば人妻ゆゑに我恋ひめやも」がある。碑文は万葉集仮名(漢字)だ。不倫を美化するようで好きにはれない相聞歌だ。
近江平野に広がる田園の向こうに見えるなだらかな山は甕割山だ。柴田勝家が六角軍に包囲され。水の手も絶たれたところ、僅かな水が残る甕を断ち割って、背水の陣の如く敵軍を撃破したという逸話の舞台だ。戦国武将の異名でも「甕割り柴田」って図抜けてカッコいい。
これから向かう箕作連山。右奥のゴツゴツ感のある山が太郎坊山(別名赤神山)、左側の高い山が小脇山。箕作山は小脇山の向こう側に隠れているようだ。小脇山の左にある小さな突起がおそらく十三仏がある岩戸山だ。そして正面手前の小高い山が紅粕山だ。
万葉歌碑の丘に連なる船岡山の山頂(152m)。集落にも近く、多くの方が日常的に散歩にやってくる山のようだ。山頂部は広く、立派な東屋が立てられている。
やめときゃいいのに縦走路から外れて赤粕山(175m)のピークを取りに行く。荒れた道を、どうせ頂上に登っても何もなかろうと思って登ったら、頂上には磐座のようなものがあり、紅白の布が巻き付けられている。この辺りには磐座信仰が今も残る山が多いようだ。
紅粕山で余計な体力を使ってしまったけれど、気を取り直して岩戸山へと向かう。聖徳太子が山頂に金色に輝く巨石を見つけ、これは仏のお導きと考えて自らの爪で十三体の仏を刻まれたとの説明板がある。安土では唯一の摩崖仏なんだそうだ。対面が楽しみだ。
山頂に向かう道は石段また石段。その傍らには石仏が何十体、いや何百体と並んでいる。それぞれの石仏にはやはり紅白の布が巻かれ、花が供えられている。多くの方々がこの石段を十三仏に向かって参拝していることが窺える。
それにしても石段、また石段。全然ゴールが見えない…。軽いハイキングと思ってやってきたけれど、どうも間違っていたようだ。まだ全行程の半分も歩いていないというのに、随分と疲れてきたぞ。でも、この山、途中にエスケープ道がないのだ。歩き切るしかない。
岩戸山の頂上の少し手前、ついに巨石が現れた。鳥居や石仏が周囲に据えられ、特別な地であることが判る。
金色ではないけれど、黄色っぽい巨石。ここに摩崖仏があるはず、と目を凝らして探すけれど、見つからない…。心が穢れた人間には見えないのかぁ?なんてことまで考えながら、アチコチと位置を変えて摩崖仏を探す。首が痛くなってきたぞ。
この種のものは現地まで行けば容易に見つかると思って、十分な下調べをしてこなかったのだ。今更ながらではあるけれど、スマホで十三仏を検索するけれど、観光案内や山行記録は数多くあるというのに、十三仏の画像も無く、満足できる情報が得られない。
長い時間を巨石の周囲で過ごしたけれど、ついに諦めて岩戸山の山頂に向かう。後でわかったことだけれど、十三仏は通常はお堂の中に安置され、滅多に公開されないとのこと。麓の案内板は詐欺みたいなものじゃぁないか、と憤慨する人が他にも多いと思うんだけど…
岩戸山(290m)。近江平野を見渡す眺望が素晴らしい。どうやらここは江戸時代の米相場の通信をしていた旗振り山になっていたらしい。山頂には野洲にある次の旗振り山の方角を示す矢印が刻まれた岩がある。
小脇山(343m)。周囲の木が伐採されて、展望台のようになっている。小脇山をはじめこの山系には六角氏方の城がたくさんあったようで、頂上付近でも石垣の址のようなものが見つかる。きっと小脇山城からも甕割山の柴田勝家攻撃の軍が出立したはずだ。
期待通り箕作山に向けてはあまりアップダウンのない道が続く。倒木や荒れた道もところどころに現れるけれど、標識もしっかりしていて、迷うようなことはない。地元の方が、かなり手を入れて登山道の整備をしてくれたようだ。
箕作山(372m)。小脇山からの距離の割には平坦な道が続き、あっさりと到着した。頂上から歩いて来た山々を振り返ることができる。正面の尖がった山が岩戸山、その右手にある比較的なだらかな山容をしているのが小脇山のようだ。
太郎坊宮へと下る前に、少し脇道に逸れて太郎坊山を目指す。麓からもゴツゴツ感のある山だと感じたけれど、近づくと急峻な岩山だ。あんな山に登れるのかぁとちょっと不安にさせられる。
が、うまく岩を回避しながら、大した難所もないままに太郎坊山山頂(350m)に到着。現地のパンフレット類では赤神山と書かれていることが多い。頂上は予想通り岩だらけの吹きっさらし。鈴鹿山脈まで見通せる眺望は良いけれど、強風の日には結構怖そうなところだ。
太郎坊宮(阿賀神社)に下りてきた。勝運の神様で知られるところだけれど、天狗信仰でも有名なところ。太郎坊とは天狗の名前のようだ。因みに次郎坊は鞍馬の天狗だ。太郎坊は愛宕山にいたという話も聞くけど、天狗だけにアチコチ簡単に移動したと考えておこう。
そして麓から742段とも言われる長い階段で知られる。下りとはいえ、足腰へのダメージは半端なく、ウンザリさせられる。
長い階段を回避して、太郎坊宮前駅ではなく、遠回りをして八日市駅を目指して下山していく。意外に八日市の市街地は賑わっているように見える。聖徳太子の時代から八の付く日に市が開かれていたという歴史のある町だ。
距離8.7㎞、累積標高624m、所要時間4時間半。どうやら甕割山を中心とした山系でも登山道の整備が進んでいるらしい。是非近いうちに訪ねてみたい。