2023年11月19日
昨日は吹雪のため金沢宿を少し過ぎたあたりで前進できなくなり、敢え無く青柳駅に撤退する羽目になったが、気を取り直して青柳駅から再スタートだ。気持ち良く晴れ渡ってはいるけれど、ホームは氷結してガリガリ状態。出だしから転倒の危機だ。
昨日撤退した道を再び西へ2㎞進むと、猛吹雪で身を潜めた鎮守の森が現れた。あらためて見渡せば吹雪を避けるにはもっと適当な場所があるけれど、あの時はあまりの天候急変のため、まるで余裕が無かった。服をもう一枚重ね着する猶予さえ与えられなかった。
稲藁が積み重ねられた白い田んぼを横目に進んでいく。あちらこちらに残雪は見られるけれど、天気が良いせいか、長閑な田園風景を楽しむ余裕がある。
あまり多くは見られないけれど、ところどころに甲州街道の道標も見られるようになってきた。この種の道標ひとつで、街道歩きの楽しみが随分と変わってくるものだ。
周囲のゴツゴツした山々は昨日の降雪を経て、さらに厳しい冬山の様相になっている。街道脇を流れる宮川の水も随分と冷たそうだ。
茅野駅に近づくにつれて、地域の名物を商う店が目に付くようになってきた。ここは馬肉を扱っている。金沢宿の近くでは鹿肉のレストランも見られた。
これは寒天蔵。海藻を原料とする寒天の国内最大の生産地は、意外なことに山に囲まれた茅野なのだ。寒冷な気候が寒天づくりに適しているのだろう。昭和初期から寒天製造が盛んになり、この寒天蔵は繭蔵を転用したものらしい。今では多目的ホールに改装されている。
味噌もまた信州名物。茅野にも大きな味噌蔵があり、見学を受け入れ、大きな土産物店まで併設している。味噌だけでなく、どぶろく、甘酒、漬物など、様々な発酵食品を取り扱っている。
これまで知らなかったけれど、貧乏神というのは味噌が好物なんだそうだ。ということで、味噌蔵の奥には世にも珍しい貧乏神神社なるものがある。
少し寄り道をして、日本三大奇祭にもあげられる御柱祭の木落としが行われる現場にやってきた。八ヶ岳の麓から切り出された樹齢150年ほどの樅の木を人力で諏訪大社の4つの境内(上社前宮、上社本宮、下社春宮、下社秋宮)へと運び込むのだ。
樅の大木をこの斜面で曳き落とすのが御柱祭最大のハイライト。動画では何度も目にしたけれど、現地に来てようやく木落としの凄さが少し実感できたような気がする。
茅野駅前には、前回(2022年)の御柱曳航で使用された太い縄が飾られている。諏訪湖周辺の地域が分担して、6年に一度、計16本の大木を延々と曳き、諏訪大社の4つの境内へと運び込むらしい。
茅野駅前の土産物屋でちょっと小ぶりの「おやき」を購入。沢山の具材が使用されているなかで、しめじ、りんご、なすの3つをチョイス。アツアツのおやきで空腹を宥める。
甲州街道をかなり外れることになるが、諏訪大社に立ち寄らない訳にはいかない。できれば4社全てをお詣りできれば、きっといいことがあるに違いない。真っ赤な紅葉、真っ青な空、真っ白な山々のコントラストを楽しみながら、進んでいく。
茅野駅からしっかり1時間歩いて、ようやく諏訪大社の本宮に到着…。って、前宮を素っ飛ばしてしまった。すぐ近くを通過したはずなのに…。今更戻る気にもなれず、四社詣りの野望は緒戦で敢え無く潰えてしまった。
週末ともあって多くの参拝客が訪問し、参道の土産物屋も随分と繁盛しているけれど、森に囲まれた本宮の神聖な雰囲気は十二分に保たれている。さすが古事記にまで登場するという長い歴史を有する神社だ。参拝所に向かう石段の脇に昨年建てられた御柱のひとつがある。
参拝所。正面に見える茅葺の建物が拝殿。本殿はなく、ご神体はその向こうにある山なのだ。ここのご神体は日本最古の神社とも言われる大神神社と同様だ。
諏訪大社本宮から北へ、再び甲州街道に合流すべく戻っていく。途中「富士見橋」と書かれた橋を渡る。これまで何十もの「富士見」を通過してきたけれど、アテにはならない。が、念のため振り返ると、見事な真っ白でデカい富士山が聳えているではないか。
甲州街道に戻る。いかにも旧街道らしい道幅だ。蔵も多く見られるけれど、戦後に建てられた比較的新しいものに感じる。おそらく江戸時代からの蔵文化が長らく受け継がれている地域だと感じる。
上諏訪の街に入ってきた。酒造が盛んな地域のようで、観光客も受け入れる大規模な酒蔵が何軒も並んでいる。雰囲気はいいのだけれど、旧街道や旧宿場町としての案内板の類がほとんど見られないのは残念だ。
本陣跡の説明も、至ってシンプルな立て看板があるだけ。今では精密工業の工場も多く立地し、諏訪大社や諏訪湖に加えて温泉まである人気の観光地となっているだけに、あまり旧宿場町をウリにする気はないようだ。
甲州街道のゴール下諏訪宿行きは明日にして諏訪湖周辺を散策する。浮城と呼ばれる諏訪高島城は外壁に木材を多用し、銅葺きの屋根を有する復興天守は、なかなかにいい雰囲気を醸し出している。信玄にいいようにされた諏訪氏だが後年高島藩主に復して本拠とした城だ。
日は間もなく暮れるが、標高750mの諏訪湖岸を少し散策してみる。満々と水を湛えた湖面のすぐ傍に遊歩道が整備されている。冬には全面凍結するのが常だったそうだけれど、最近の氷はかなり薄くなってきたらしい。
諏訪湖一周は16㎞。遊歩道も整備されているし、平坦そうだし、距離も実に手頃だ。かつて琵琶湖一周を歩いたけれど、諏訪湖一周というのも随分と魅力的に感じる。
歩行距離21.6㎞。相変わらずだけれど、スマホの負荷が高いのか、何度も歩行軌跡が端折られて直線状になっている。実際の距離はもう1~2㎞は長いのではなかろうか。所用時間は約9時間。