尼崎散策(福知山線事故現場&尼崎城)

2019年4月7日(日)


忍たま乱太郎地名スタンプラリーなど、何度も訪問し、歩きつくした感のある尼崎市だけど、2つ行きたいところがある。ひとつは最近完成・公開された尼崎城。もうひとつは昨秋、福知山線脱線事故現場に整備された慰霊施設だ。

 


JR福知山線の塚口駅。2面3線の駅に隣接して3本もの留置線がある。昔この駅を取り囲んでいた工場への引き込み線の名残だろうか。今では工場の多くがマンションや商業施設に生まれ変わり、町の雰囲気は一変している。



尼崎市は公害や治安などのネガティブなイメージを払拭するため、「近松門左衛門の町」をアピールをしている(大阪が怒らないのが不思議だ)。塚口付近には近松公園もありマンホールも近松バージョンが多い。しかし近松ばかりに尼崎のイメージアップを頼るのは無理を感じているはず。それだけにこの度の尼崎城再建への強い思いはよく理解できるように思う。



名神高速を南に過ぎると、工場などが立ち並ぶエリアとなる。高速下の道路は行き止まりであることをいいことに粗大ごみや廃車が放置されている。こういうところを是正するところから始めないと、文化の町を標榜する資格に欠けるのではないだろうか。



2005年4月、名神高速の少し南側で、あの福知山線脱線事故が発生した。会社の同僚が事故で亡くなり、またあまりにも悲惨な事故であったため、これまで尼崎市内を歩き回る機会は多くとも、敢えてこのエリアに足を運ぶ勇気が無かったのだけど、慰霊施設「祈りの杜」の完成を聞き意を決して訪問する。



厳かな慰霊施設であるため、内部は一切撮影禁止。外部からのみの撮影となるが、致し方あるまい。以前はここに10階建てのマンションが立っていたところだ。なぜか警備員が正門で厳重に警戒をしていて、気安く入場できる雰囲気ではない。正門受付で住所・名前の記帳を求められる。



4月25日の慰霊式典の準備のため、慰霊碑を中心とした広いエリアは白い幕に囲われて立入ができない状況。列車が衝突したマンション駐車場や献花台までの細い道のみが通行できる。事故現場で亡くなった同僚のこと、御葬儀のことなど思い出し、合掌する。



 このカーブの向こうから、時速110kmを超える猛スピードで列車が慰霊施設の場所にあったマンションに突っ込んでいったのだ。施設の地下に設けられた資料館に事故の状況が詳しく説明されている。



ここが脱線した列車が突っ込んだマンション。10階建のマンションは5階以上が取り壊され、事故現場保存のため4階までを残して、透明のアクリル板のようなもので覆われている。1階部にあった屋内駐車場のなかで車両が圧し潰された。



事故現場を走る列車は、随分と徐行しているように見える。祈りの杜は、慰霊、記録とともに、鉄道安全を支えるJR職員の教育の場にもなっているようだ。ヒューマンエラーは原因ではなく結果なのだ。人の命の尊さを知り、安全が何にも優先されることは鉄道業界に限らず、万人に徹底すべき事柄だとあらためて痛感する。



 祈りの杜の前にあるのが「日本スピンドル社」。JRよりも消防・警察よりも、いち早く救助活動を始めた会社だ。工場を停止して道工具を携えて社員総出動したという。この話を聞いたときにはその素晴らしい行動に涙が出そうな思いだった。菊池寛賞の受賞はしたけど、もっともっと称賛され、語り継がれていくべき事績だと思う。



 JR尼崎駅を南北に横断する地下道。「自転車は降りてください」との大きな看板がいくつも見られるが、放送では「いつでも停まれるスピードで走れ」と言っている。安全の基本は、しっかりとしたルールづくりのはずなんだけど・・・。



天神橋緑地というものに出会う。いかにも廃線跡の雰囲気だが、つい最近も豊中市内の緑道を廃線跡間違いなしと見誤ったばかり。帰宅後調べると、福知山線の支線、尼崎港線が走っていたところで、このあたりに金楽寺駅という駅があったと知る。もっとじっくりと観察すれば良かった・・・。



で、その金楽寺という古くて荒れたお寺は、貝塚が発見されたところらしい。今では海まで3km以上はあるところだけど、昔はこの辺りが海岸線だったようだ。



 阪神電車尼崎駅の南、再建された尼崎城までやってきた。立派な四層天守で堀まである。もっとも天守は小ぶりで、堀の水嵩は10cmほどしかなさそうだ。



尼崎城の正面。天守は再現されているけど、周囲は芝生広場になっていて、子供たちが元気に遊び回っている。歴史的には違和感もあるけど、市のシンボルとして、市民の求心力となるべく再建されたお城の在り方としては決して悪くは無いと思う。



なぜこんなに高いのかと思える大枚500円もの入城料を支払い、最上階5階から見学を開始する。5階は何の展示もない展望フロア。なんだか新築マンションの内見会にでもやってきた気分になる。駅チカ、100平米ほどのペントハウス、眺望良好。2億円はしそうな物件だ。



4階部には、なんとお城を描いた手ぬぐいだけが展示されている。尼崎城ばかりではなく、他のお城の手ぬぐいも多い。とても面白いけど、ワンフロア丸ごと手ぬぐいというのは大胆な展示だ。



3階部は、甲冑や着物を着ることができるコーナーのみ。そして2階部に尼崎城の歴史の紹介がようやく登場する。しかしフロアの半分くらいはゲームコーナー。



2階部にはシアターもあって、近松門左衛門が尼崎城を紹介するビデオが上映されていた。映像は綺麗なんだけど、ストーリーはイマイチ盛り上がりに欠ける。



 1階部にあるお土産コーナー。早くも「令和」の文字が入った尼崎城コースターが販売されていたことに驚く。



 お城の裏側にも、子供たちが遊ぶ公園が整備されている。櫓を模したような遊具に多くの子供たちが集まっている。展示を見る限り500円を支払ってのリピーターは多くなさそうに思うが、子供たちが遊ぶ公園は、毎日のように賑わうように思える。




お城の周囲には、見どころを迎えた桜の木も多く植えられている。お城と桜の組み合わせって、絵になる。もっとも、お城の後ろに立つ高層マンションが映り込まないようにするのに苦労しなければならない。



阪神尼崎駅前では、赤・白・黄色のチューリップが咲き乱れている。その後ろには桜も満開なんだけど、チューリップの派手な色合いのせいか、居心地が悪そうに思える。



記録上の歩行距離は9kmだけど、祈りの杜や尼崎城の内外でかなりウロウロしていたので、実質的には5kmくらいしか歩いていないように思う。



尼崎市の悪口のようなことも随分書いてしまったけど、実のところ尼崎市を応援しているのだ。庄下川も随分綺麗になったし、公園やサイクリングロードなども良く整備されてきた。尼崎城の設えはイマイチ感が強いけど、まだまだ再建したばかり。これからの発展に大いに期待したい。