2019年6月2日(日)
前日、近鉄奈良駅から柳生までの約20kmの柳生街道をヘトヘトになりながらも踏破したが、今日は柳生の集落内を探索し、さらに笠置まで足を伸ばすことにする。
まず訪れたのが小高い山の鬱蒼とした森の中にある式内天乃石立神社。拝殿はあるものの、神殿はない。聳り立つ巨岩がご神体なのだ。
その奥にある岩こそが、初代藩主宗矩の父、新陰流石舟斎宗厳が天狗との剣術修行をしていた際に断ち割ったと伝えられている。ここは長らく柳生藩の聖地として、一般の立ち入りは許されなかったところらしい。
山を下り、柳生宗矩の子、十兵衛三厳が柳生新陰流を全国から集まった門弟を指導したという正木坂道場にやってきた。今も剣道の道場になっているようだが、内部は窺い知ることができない。
今では柳生家の菩提寺、芳徳寺となっているところが初期の柳生城だったところらしい。芳徳寺前の前には「石舟斎塁城」の石碑が建っている。
「柳の森」というところにやってきた。ここの柳が、「柳生」の地名の由来になったらしいが、ちっとも森ではない。
柳生家老屋敷。山岡荘八が買い取り、NHK大河にもなった小説「春の坂道」の構想づくりをしたところとして知られ、当時の上級武家屋敷の間取りなどが興味深いけど、ここが柳生で唯一公開されている歴史的建造物というのはちょっと寂しい。門前にはなぜか宗矩とお藤の顔出しパネルがある。
今は公園になっている柳生藩陣屋跡。遺構が残るとはいえ、往時を彷彿とさせてくれるほどでもない。柳生といえば、奈良県内では奈良、明日香、吉野に次ぐくらいの知名度のある町だとは思うのだけど、観光に来た人はがっかりするように思える。
柳生に別れを告げて、笠置の方へ向かう。古い道路標識が笠置への道を示しているが、パンフレットに従って旧道を進む。
小高い山の中腹に立つ「十兵衛杉」。柳生十兵衛が諸国漫遊の際に植えたと伝わるが、近年落雷で枯れてしまったが、その横にある2代目の十兵衛杉がかなりの高さまで育っている。
長閑な田舎道を歩いていると城郭風の建物が突如現れた。どうやら個人のお宅のようだが、かなり力が入っている。悪趣味という人もいるだろうけど、こんな家に住んでみたいという気持ちはよく判る。
木津川支流の打滝川に沿って笠置を目指す。川の畔に「阿対(あたや)の石仏」という大きな摩崖仏が佇んでいる。豆腐を供えると子宝に恵まれるのだそうだ。
奈良県と京都府の境界も判らないまま、ガイドブックが示す道を進んでいると突如立派な舗装道があらわれた。おそらくゴルフ場建設のために旧道が大拡張されたとのだろう。
ゴルフ場を過ぎ、さらに北に進むと、再び旧道が現れる。この山道を抜けて、名勝笠置寺を目指す。倒幕に燃える後醍醐天皇が鎌倉幕府軍から逃れるように立て籠ったところだ。
笠置寺に着くと大きな看板に注意書きがある。「岩と木の値と石段ばかりの行場なので、ゲタやハイヒールでは無理」とある。ただ這ってでも登れる天保山とは違うなどと言うと、逆に舐めてかかる人がいないか心配になる。
境内はまさに行場。なんといっても後醍醐天皇軍が鎌倉の大軍と大激闘を繰り広げた要害なのだ。戦火で剥離してしまった弥勒磨崖仏の跡が残る。最近僅かに残る痕跡から摩崖仏の在りし日の姿が復元されたらしく、お堂に展示されていた。
幸いなことに、戦禍を逃れた摩崖仏もある。虚空蔵仏だ。2センチほどの線で描かれてた座像が緻密で優雅に描かれている。一説には弘法大師が一夜にして彫り上げたとも伝わるらしい。
境内は巨石・巨岩のテーマパークのようになっている。行場に入るに際しては、まず滝に打たれて身を清めなければならないところ、笠置には滝が無いため、胎内くぐりがその代わりになっているんだそうだ。
鎌倉幕府軍に立ち向かうべく、寡勢の南朝軍は、巨石を山の上から下にむけて転がり落としていたそうだ。今もそうした巨石が山の麓を狙うように残っている。
奥深いところだ。鎌倉幕府軍も、ここまで大軍を進めてくるのには随分と苦労したことだろう。まさに天嶮の地というのにふさわしい。
境内のなかで最も高いところにある後醍醐天皇の行在所。石柱による厳めしい柵がほどこされているようだけど、これは前面だけ。ちょっと横に行けば行在所のなかに立ち入ることができる。もっとも中は何もない草っぱらだ。
笠置寺から30分ほど山を下って、笠置の町までやってきた。山間に静かな街並みが佇んでいる。
JRの駅前には、太平記の名場面を再現したジオラマがある。強弓で敵を射ているのは足助重範。大きな石を投げつけいるのが怪力僧の本性房だ。
JR笠置駅から帰路につく。関西「本線」だというのに隣の加茂駅までは非電化の一両編成だ。
本日の歩行軌跡。距離は11kmを僅かに超えた程度だけど、さすがに前日の
疲れも引き摺っていただけに、帰路の電車内では爆睡してしまう。
随分久しぶりに一泊してのウォーキング。こうすると行動範囲は一気に広がるのだけど、背負う荷物が増えてしまうのが難点だ。