打越山・七兵衛山・本庄山【六甲山系】

 2022年1月10日


今年の初登山に出掛ける。目指すのは六甲山系の七兵衛山。阪急岡本駅から1時間半ほどの軽登山とはいえ1ヶ月半ぶりの山歩きなので、気のせいか久々の登山靴が小さく感じるし、ガクッと体力が落ちているんじゃないかと不安になる。岡本八幡神社に参拝して出発だ。



六甲山系の登山道としては、比較的人気のない八幡谷なんだけれど、晴天の三連休のせいか今日は随分と人が多い。登山道の入口から前後を団体に挟まれるという、窮屈なポジションでの山登りになってしまう。



しばらく登っていくと、2体の石仏(道祖伸かも)が八幡谷の門番のように立っている。左右が異なる方向を向く不思議な立ち位置だ。たびたび帽子や前垂れなどの衣裳が変わるのが楽しみなんだけれど、今日は冬らしく白と黒のニット帽を被っておられる。



八幡谷は、麓でお好み焼き屋さんを営むFさんがおひとりで20年以上を掛けて整備を続けておられることで知られる登山道。手摺りもベンチも、すべてFさんの手作りだ。Fさんおひとりで整備に注力してきた八幡谷登山道は六甲山系のなかでも独特の風景が続く。



日射しが強いうえに、常緑樹が多い道なので、冬の山だとは思えない風景が続く。比較的軽装の防寒ウェアを着込んできたのだけれど、それでも暑くて堪らない。



打越峠で休憩していた10名以上の団体が七兵衛山に向かったので、混雑を嫌って急遽打越山に行先を変更する。初登山に相応しい縁起の良さそうな字面なんだけれど、眺望が悪く人気が低い山だ。ところが打越山にやってきると、いつの間にか山頂付近の伐採が進んでいた。



打越山(480m)の山頂。木が切り倒されたせいで、これまでは見えなかったはずの七兵衛山(写真正面)もはっきりと確認できる。



山頂でメールなどを打ちながら休憩していたところ、なんとこの休憩所を整備されたFさんがおられることに気付く。これまで何度かお見掛けしたことはあるけれど、初めて親しくお話をさせていただき感激してしまう。齢80歳とは思えないお元気さにも驚かされる。



十文字山を経て下山するつもりだったのだけれど、Fさんが12年掛けて整備されたという七兵衛山の山頂をあらためて見たくなる。YAMAPでは破線ルートのためこれまで進入を避けていた打越峠への近道へと進んで行く数人のハイカーを偶然見かけたので、後を付いていく。



トレースがあまり見られない迷いやすい道。前のハイカーも道の確認に苦労されている。道探しを任せっぱなしにして、ただ後ろを付いて歩いていることになってしまい、なんとも申し訳ない…。



少々藪漕ぎや急坂などもあったけれど、無事間違いのない道に出ることができた。気が付けば六甲の山頂部が青空の下に美しく連なっている。



打越峠に戻ってきた。ちょうど10名程度のハイカーがベンチでの休憩を終えて出発するところだ。皆はこれらのベンチを誰が作ったのか、知っているのだろうか。



七兵衛山(462m)の山頂。Fさんが整備を始めて24年、この七兵衛山には12年を要したという。お洒落な山頂標識もおそらくFさんの製作だろうし、山頂のすぐ下にも休憩できる広場が整備されている。菊池寛の「青の洞門」や「雨だれ石を穿つ」という成句を思い起こす。



背後に谷があるのでわざわざ七兵衛山や打越山を経由して六甲山に登る人は少ないだろうけれど、軽登山を楽しむには適当な標高だ。Fさんのお陰で登山道が整備され、手軽に登れるうえに、絶好の展望が楽しめる山になった。



七兵衛山を後にして、登山道に数多く見られるFさんの作品を見ながら、風吹岩経由での下山を目指す。ベンチに使われているのは線路の枕木などにも使われるニセアカシヤのようだ。頑丈だけれど重いことでも知られる。切断や運搬にも相当な苦労があったはずだ。



崖に面した道の路肩の整備や、橋の補強、木段の設置など、Fさんの手によると思われるものは登山道の至るところに見られる。同じような木材で似たテイストなのでFさん作だとすぐ判る。



重機も使えない場所で、ひとりで作れたはずがないと思う人も多いようだ。ご本人は「楽しくて仕方ない」と仰っていたけれど、楽しいことばかりでもないはずだ。でも80歳になってなお、皆のために笑顔で尽くしておられることに強い驚嘆と尊敬の念を禁じ得ない。



素人工作のように不格好に見えるけれど、どれも頑丈そのもの。適当に組み合わせたような石や木にガタつきもない。法律は知らないけれど国立公園内を勝手に改造するなと目くじらを立てる人がいないことを祈る。いずれかの道か山にFさんの名を冠したいとさえ思う。



水平道を西へと進み、これまで傍を通るだけで山頂を確認していなかった本庄山の山頂を確認するため、登山道を外れて藪のなかへと入っていく。



どうやら、この辺りが山頂のようだ。山頂碑は見当たらないけれど、三等三角点の標石があるので間違いなかろう。標高は424m。



時折りクロスワードパズルの紙を持って歩いているハイカーに出会うので不思議に思っていたが、どうやら山の中の随所にパズルのカギ(写真は「ヨコの15」のカギのようだ)が隠されているのを探しているようだ。色々な楽しみ方があるものだ。



八幡谷でさえ混み合っていただけに、風吹岩や芦屋ロックガーデンは超混雑のはず。予定をさらに変更して、これまで歩いたことがない神戸薬科大に続く道で下山する。YAMAPでは破線扱いの道だけれど、聞いていたとおり狭いながらも整備された見晴らしのいい道だ。



下山口にある神戸薬科大。昔は女子薬科大学だったはずだけれど、いつの間にか共学になっている。



神戸薬科大からJR甲南山手駅まで歩いて今年の初登山は完了。距離8.4㎞、獲得標高740m。所要時間は5時間弱。もっともそのうち1時間ほどはFさんのお話を伺うなど、とても感動的で有意義な休憩時間。



標高グラフ。大した標高でもないけれど、まあ初登山としてはこんなものだろう。登頂した3つの山のピークがよく判る。