斉藤山・桶居山(姫路市)

 2022年3月8日


播磨アルプスとも呼ばれる高御座山系の西側の縦走に出掛ける。見るからに険しそうな山々が連なるところだけに不安は大きい。はたしてポンコツハイカーに太刀打ちできるだろうか。JR御着駅をスタートし、黒田官兵衛ゆかりの御着城を横目に見ながら登山口に向かう。



登山口となる白髭神社にやってきた。斉藤山なんてお気軽そうな山名に似合わない相当急峻な登り口だと聞いているけれど大丈夫だろうか…。拝殿の向こうには恐ろし気な岩山が聳え立っているが、ご神体なのだろうか。なんだか嫌な予感がするぞ。



えらいところに来てしまった…。とんでもない岩壁が待ち構えている。局所的に見れば、それぞれ手や足を掛けるところもあるので、青いペンキで示された方向に進んで行けば登れない岩場ではないのだけれど、それが延々と続いているのだ。



下を見れば足が竦む。上を見ると心が折れる…。しかし登り始めたら登り切るしかない。この急峻な岩場を下るという選択肢は考えられない。未だにアイゼンなどを入れたままのリュックの重さのせいか、体が後ろに持っていかれそうになる。懸命に前傾姿勢を保ちながら岩に食らいついていく。



厳しい登攀で汗が噴き出し息が上がる。冷や汗のような変な汗が出だしたうえに、動悸が異常に激しくなってきた。13年前の滑落事故のトラウマか、高所恐怖症のような症状が出てきた。堪らず岩場の途中で腰を下ろし、長い時間を掛けて体調の回復を図る。



なんとか岩登りをクリアしたものの、体力も気力も早くもレッドゾーン。1ラウンド早々にハードパンチを浴びてダウンを食らったボクサーのようなヘロヘロ状態で進んで行く。いくつもの山を縦走してJR曽根駅まで歩く予定だったけれど、とても行けそうには思えない。



それでも何とか第一目標の斉藤山(177m)まではやってきた。今日はもう十分だとの思いが強く、下山を考えるけれど、どの下山路も等高線幅は狭く見えてならない。情報も無いまま、急峻な下り坂に進む気にもなれない。



この先に待ち構える山々。標高200m前後でしかないけれど、アップダウンの激しい道になりそうだ。しかし比較的安心して下りることができそうな下山道はこの先にある急峻なことで名高い桶居(おけすけ)山の先にしか見当たらない。



斉藤山から、名も付けられていないピークをいくつか越えていく。どうしてこれに山名がないのだろうか。なんだか登っただけ損したような気分になるけれど、とにかくこの山系は、ピークを繋ぐ尾根道ばかりでピークを回避するような道がないのだ。



いよいよ岩稜の向こうに桶居山が見えてきた。播磨アルプスのなかでも、そのトンガリ具合は群を抜いていて、あれって登れる山なんだろうか、と仰ぎ見てきた山にいよいよ登っていく。体調も気分も優れないけれど、ゆっくりと進んでいこう。



岩また岩の道が続く。白髭神社の登山口から、ほとんど岩の上を歩いているような気がする。岩好きには溜まらない道なんだろうけれど、うんざりしてきたぞ。しかし、これから先も岩だらけの道が続くはずだ。



奇岩、巨岩の間を潜りぬけるようにして登っていく。こけし岩とかゴジラ岩とか、いろいろ名前を持つ岩もあるようだけれど、そんなものを探しているような余裕はない…。ゆっくりと、そして安全に、桶居山まで登ることだけを考えて進む。



ようやく桶居山(247m)の山頂に到着。尖がった山容からは想像できなかった意外に広い山頂部だ。眺望もいい。これだけの平坦部があるせいか、宮本武蔵が天狗に兵法を習ったなんて伝承があるらしい。



桶居山からの下山は急峻な岩場の激下りになっている。凸凹の多い岩場なので足を掛けるところは多いとはいえ、ひどく神経を使わされる。無事下りきったところで、歩いてきた道を振り返ったけれど、あらためてその急坂に驚かされる。



東側から見た桶居山の山容。よくまあこんな山を越えてきたものだと思う。まだしも緩やかな西側から攻めたので登ってきたけれど、東側からなら心が折れていたかもしれない。



桶居山を越えたところで大休憩。最大の難所を無事越えたせいか、気持ちにはちょっと余裕が出てきた。ここで下山と思っていたけれど、もう少し先に進んでみよう。どうかこれ以上厳しいアップダウンが現れませんように、と願いながらなだらかな尾根道を進む。



願いも空しく、その後も厳しいアップダウンが繰り返される。気分的にも体力的にも疲れてはいるのだけれど、なぜか足だけは痛むことも無く元気だ。自衛隊ご用達のインソールのおかげだろうか。



ついに勝手知ったる高御位山へと続く縦走路に合流した。ここまで山に囲まれて遠くを見通せない道が続いたけれど、ここから先は西に向かっても東に向かっても海まで見通せる絶景の道が続くはずだ。



ゆっくり歩いてきたので、鹿嶋神社からの最終バスには間に合わない。となると当初の予定どおりJR曽根駅まで歩くしかない。しかし正面にみえる百間岩の岩稜が気になる。斜度は30度くらいだけれど、下りで使ったことがない。



鷹ノ巣山(264m)、奥別所山(210m)を経て百間岩にやってきた。百間(30m)というのはおそらく横幅で、長さは300mくらいある。白髭神社の岩場のような症状が出たらヤバいなぁと心配していたけれど、幸いグリップも効いて怖さを感じることもなく下ることができた。



鹿嶋神社に下山し、そのまま平地を曽根駅まで歩くつもりだったけれど、勢い曽根駅近くまで続く山々を踏破していくことにする。何年も前に歩いたことはあるのだけれど、全く記憶に残っていない。まずは地徳山(194m)だ。



相変わらず岩山の連続だ。適度に休憩を挟みながらゆっくり歩いてきたせいか、登山序盤に大ダメージを受けた割には何とか普通に歩けている。



続いては大谷山(159m)、さらにその向こうに見える大平山(155m)へと進む。かつて大阪と各地を結ぶ米相場の旗振り通信の基地があったと言われる大平山の向こうにJR曽根駅があるはずだ。



相変わらずの岩だらけの道をテクテクと進むが、いよいよ日が暮れてきた。なんとかヘッドライトを使うことなく歩き通したけれど、急坂を下って国道2号線まで出てきたときには、周囲はほとんど暗くなっていた。




本日の歩行軌跡。歩行距離10.5㎞、累積標高965m。所要時間は予定を大幅に上回る7時間20分。1R早々にダウンしたものの、何とか15R倒れることなく闘い続けたボクサーのような気分だ。もっともKO負けは逃れたものの判定負けなのは言うまでもない。



標高軌跡。ピークが多すぎて、どこが山頂なのか、よく判らない…。YAMAPの記録上は7つの山頂を制覇したことになっている。