愛宕山(京都市)

 2023年6月9日


10年ぶりに京都の愛宕山に向かう。雨が上がったばかりだけれど、整備された表参道であれば問題なさそうだ。もっとも頂上まで延々と続く階段には相当苦しめられるはずだ。下りは始めての月輪寺参道を歩いてみたい。



嵐山の奥、愛宕山表参道の入口にもなっている清滝を出発する。雨模様の日が続いているけれど、清滝川の水位は思ったほどに高くはない。



つい最近熊が目撃されたばかりのようだ。人の少ない月輪寺付近だけでなく、表参道にまで熊が出没することもあるらしい。全国に900もあるの愛宕社の総本山として1300年以上もこの地に鎮座している聖域であることなど、熊にとっては知ったことではないのだろう。



愛宕山鉄道のケーブル跡に沿って急坂を登っていく。戦前まで山頂付近に愛宕山遊園地があったなんてことは、俄かには信じられない。



覚悟はしていたものの長い長い階段は実に厄介だ。おそらく山頂までの大半が階段のはずだ。ペースを抑えめに、太腿を労りながら登っていく。



神社の参道だけれど、所々に小さな石仏が見られる。かつて神仏習合の時代には愛宕神社は白雲寺という寺院でもあったという。どの仏様にも可愛い服と前掛けが着せられ、新しい花が供えられている。



ところどころに茶屋跡がある。これは二十五丁目の茶屋跡の碑。かつては一丁おきに茶屋があったという。それほどに参詣者が多かったということだろうか。山頂は五十丁目だということだから、ようやく半分だ。実際に茶屋があったなら迷わず入ることだろう。



京都の町が見下ろせる。桂川ってこんなに湾曲してたんだ、と改めて驚かされる。嵐山の渡月橋も確認できる。



倒木が多いけれど、立派な巨木なので撤去も容易ではないのだろう。参道に掛かる部分だけを切り取って、残りは放置しておくという当然とも思えるし、大胆とも思える対策が講じられている。



保津峡・亀岡からの登山道と合流する水尾分かれ。ここを含めて3つの東屋がある。以前登った際にはこのうちのひとつだけで休憩したけれど、今日は3つ全てで休憩だ。10年前と比べるとさすがに体力の衰えは否めない。



水尾分かれを過ぎると亀岡の町が見渡せる。最近できたサッカースタジアムも確認できる。本能寺の変の数日前、明智光秀は愛宕百韻と呼ばれる連歌の会に亀岡から愛宕山に登ってきたのも梅雨時のこの季節だ。



水尾分かれを過ぎると、随分と涼しくなってきたような気がする。標高は700mくらいだから清滝の気温に比べると数度は低いはずだ。もっとも足腰の疲労は溜まり、愛宕駅跡や遊園地跡への寄り道は諦めて愛宕神社へと向かう。石段の高い段差を補完する丸太が有難い。



参道を取り囲む杉は一層太く立派なものになってきたところで愛宕神社の黒門が現れた。これは正確に言うならば愛宕神社ではなく、白雲寺の山門だったらしい。



さらに階段を登り続けると、あたりは急に霞がかかったようにガスってきた。雲の中に入ったのだろうか。階段の奥に愛宕山の山頂(924m)に鎮座する愛宕神社の鳥居が薄っすらと見えてきた。



清滝から歩き始めて3時間ほどでようやく愛宕神社の本殿に到着。東屋が現れる度に休憩していたこともあって、予定より30分以上も遅い到着だ。まあ今の体力ならこんなもんだろう。登るも下るも歩く以外の方法が無いところなので、十分な余力は残しておきたい。



火伏・防火に霊験があることで知られる愛宕神社だけれど、珍しい登山安全のお守りも授与していただける。足腰のお守りは護国神社や服部天神で戴いたけれど、滑落・転倒・道迷いなど登山ならではのリスクに対応するためにも是非欲しかったお守りなのだ。



帰路は月輪寺コースで下山する。相変わらず霧が濃いうえに、雨上がりで路面の泥濘が心配だ。お守りは頂戴したけれど、とにかく用心しながら歩いていこう。



表参道とは異なり、いかにも登山道といった雰囲気だ。泥濘に加えて、露出した岩や濡れ落ち葉も多い急坂が続く。ズルっと転倒してしまいそうな道だ。注意深く進むが、そんな時にはまるで滑らない。つい気を抜いた時に滑っちゃうのだ。



月輪寺。役行者とか空也、法然、親鸞など、宗教史のビッグネームに所縁の深い古刹で、数多くの文化財も保存されている。もっとも10年ほど前の豪雨で大きな被害を受けたそうで、参拝者にも復旧支援金が求められている。



清滝に向けて、長い長い下山道が続く。月輪寺への参道にもなっているせいか、思っていたよりも道は整備されているのが助かる。



清滝川まで下ってきた。登山口よりも川幅が狭いせいか、随分と水量が多く、流れも激しい気がする。渓流から吹きあがってくる冷気が心地よい。



しっかりと手が入った川に沿った杉林のなかを清滝に帰っていく。あとは平坦な道をブラブラと歩くだけだ。



京都一周トレイルの標識がある。10年ほど前に5日かけて完歩したけれど、比叡山には登るのに愛宕山は山麓を通り過ぎるだけだっているのが、対称性に欠けるように感じたものだ。久しぶりに歩いてみようかと時々思うのだけれど、なかなか決心がつかない。



清滝川沿いに建つ清滝記念会館。「(旧)千葉真一道場」の表札も掛かっている。アクションスターの養成所のようなところだったのだろうか。コロナで亡くなったのは記憶に新しいところだけれど、今や廃屋のようになっている。とても気になる。



距離9.8㎞、獲得標高1040m。所要時間は5時間40分。思ったより時間が掛かったけれど、覚悟していたほどの疲れもなく下山できた。これくらいのペースの登山がちょうどいいのかもしれない。