2022年4月10日 ②
樽見の大桜を訪問した後、朝来市の立雲峡にやってきた。一昨年の秋、雲海に浮ぶ竹田城観望の際には暗闇のなかをヘッドライトを付けて中腹の展望台まで歩いたが、今回は但馬吉野とまで呼ばれるほど名高い立雲峡の桜を楽しみながら朝来山の山頂にまで登ってみたい。
立雲峡は桜まつりの真っ最中。といっても、屋台が出る訳でも催しものがある訳でもない。音楽も流れておらず、桜まつりの横断幕があるだけだ。これでいいのだ。余計な演出は耳障り・目障りでしかない。
桜が見事に咲き誇っている。樽見大桜ほどではないけれど、かなり樹齢を重ねた趣のある桜が咲き競っている。しかも有難いことに、花見には絶好ともいえる抜けるような青空だ。
空気が澄んでいるのだろうか。対面する竹田城跡もとてもよく見通せる。竹田城跡でも多くの桜が咲き誇っていることが判る。
下から順に、第3展望台、第2展望台、第1展望台とあるが、上に登るにつれて桜の数は減っていき、同時に人の数も減っていく。ようやく人が移りこまない写真が撮りやすいところまでやってきた。
雲海ならぬ桜海(なんて言葉があるとは思えないけれど)に浮ぶ竹田城跡。雲海観望に比べても遜色ないほどの感動的な風景だ。三脚を立てたカメラマンを何人も見かけるが、年に1回あるかないかの好条件に違いない。
第2展望台を過ぎると、奇岩が多いエリアとなる。苔むした奇岩のなかでも桜の木は力強く根を張り、美しい花を咲かせている。
咲き乱れる桜や竹田城跡の眺望の写真を撮りながらののんびり登山だというのにとても疲れる。雲海観望で訪問した際は第1展望台まで一気に登り切ったはずなのに、昨日のゴルフのせいか、あるいは暑さのせいか、あるいは老化なのか、階段ではすぐ息が上がってしまう。
いつの間にやら、第1展望台の少し上に立雲峡テラスという大規模な展望台が出来上がっている。一昨年に雲海観望に訪れた際には展望台は大混雑だったけれど、テラスの新設で雲海観望のキャパシティは2倍以上に膨れ上がったのではないだろうか。
大半の人はせいぜい立雲峡テラスまでに下山するが、頑張って朝来山まで登ってみよう。少し進んだ「おおなる池」の向こうに現れた朝来山は、地図の等高線を見て想像していたより更に切り立っている。既に疲れた体にはかなり手強そうな山だけれど大丈夫だろうか…。
ふと、おおなる池の畔を見ると、黒いものがビッシリ貼り付いている。藻のようなものだろうか。
なんと正体はオタマジャクシ。何千、何万、あるいは何十万かもしれないとさえ思わせるようなオタマジャクシの大群だ。まだ孵化して間もないのだろう。池畔の石という石にビッシリ貼り付いている。石の表面の小さな藻のようなものを食べているのだろうか。
「うじゃうじゃ」という言葉は、こんな時のためにあるに違いない。沢山撮影した写真の多くは真っ黒すぎて訳が判らずボツ。多少疎らに群れている写真しか採用できない。これが全てカエルになったら、池が溢れてしまうのは必定だ。敵も多く生存率は相当低いのだろう。
オタマジャクシの大発生を目の当たりにして昂ぶった気持ちを鎮めるため、モクレンの花が咲く池の畔の東屋で休憩。桜に、竹田城に、オタマジャクシ。もう十分すぎるほどの刺激的な体験をしたので、今日はもう帰ってもいいかな、なんて気持ちも湧いてくる。
東屋での休憩で気持ちも体もリセットして、あらためて朝来山に向かうことにする。登山道は東西にあるので、周回するつもりでやってきたけれど、分岐点には東に向かう道にのみ「朝来山山頂」の案内標識がある。とりあえず東から登り、西から下りることにしよう。
いよいよ朝来山への登山開始だ。あらためて地図を確認するが、等高線幅は狭く、かなりの急登が予想されるけれど、案内標識や階段もある道なので、さほどの難路ではないだろう、と楽観的に考えて山に取りつく。
登山道は九十九折れになっているけれど、それでも既に疲れた体にはキツイ。足元に見える薄紫の小さな花の名を調べるため(実際は休憩したかっただけなのだけれど)、早くも座り込む。頼みのGoogle Lensはスミレと判定するけれど、スミレってこんなんだったっけ…。
急斜面の山腹を巻くようにトラバースの道が続く。道自体は危ないものではないけれど、フラついて転倒でもしたら急斜面を転がり落ちることになる。
この道は「むささびコース」というようで、ところどころに番号が付いた標識が立っている。5番というのは5合目だろうか。しんどい。やめときゃ良かった…。
残念ながらムササビに出会うこともなく、ぜいぜい息を切らしながら林間の道を登り、ようやく眺望のあるところまで登ってきた。標札の番号は11番!。数字は合目ではなかったのか…。GPSで確認したところ、頂上はまだ先だ。
さらに登って、大きな展望台があるところまでやってきた。但馬の山々が一望できる。写真左から、氷ノ山、鉢伏山、蘇武岳だ。いずれも最近登った山だけれど、再び登る日があるだろうか。
ここは朝来山展望台というところで、標高は719m。標識の「山頂はこちら」という文字からは1~2分先に山頂があるように感じられるけれど、まだ15分くらいは歩かなければ着かないはずだ。
日当たりの良い稜線に出て、早くも夏の暑さを感じさせる道を進み、ようやく朝来山山頂(756m)に到着。特に眺望もなければ、座り込むところもない。イマイチ達成感に欠ける山頂だけれど、疲れた体に鞭打って山頂まで登り切ったことには満足だ。
西側の登山道から下山しようと思ったら「この先行き止まり」の看板がある。周回コースを歩いた何人ものハイカーの記録を読んだけれど、この看板を無視して進んだのだろうか。無理をするだけの技量もないし、体力消耗も激しいので、無難に来た道を慎重に下山する。
歩行距離6.2km、獲得標高700m。所要時間は約5時間。桜満開の立雲峡では写真ばかり撮っていたし、急坂続きの朝来山では腰を下ろしてばかりなので、少なくとも4分の1は休憩していたはずだ。