愛宕山(丹波篠山市)

 2022年4月3日


丹波篠山市と三田市の市境にある愛宕山に出掛ける。三椏(ミツマタ)の群生地があることで有名な山だ。登山口となる龍蔵寺は645年開山で今も古くからの密教修法を執り行っているという古刹だが、参拝もそこそこに、「超急坂」と聞く愛宕山への登山道に取りつく。



苔むした古い石段が延々と続く。登山開始早々、太腿が辛い。これが超急坂というやつかぁ?(後で判ることだけれど、この程度の石段は全くの序の口であった)



いつまでも続く石段に早くもウンザリとしてきた。ところどころに、距離表示があるのだけれど全然進まない。100m進むのに何分も掛かっている…。



登山道には石仏も見られる。信仰心というよりも息を整えるために立ち止まって手を合わせるが、なかなか動悸が収まらず長々と拝んでいることになってしまう。



注連縄が巻かれた古木も見られる。山全体が聖域となっている。ミツマタも見頃を迎えた日曜日なので、もっと多くのハイカーがいると予想していたのだけれど、前にも後ろにも人の気配は全く感じられない。随分と静かな山だが、息は荒い。



随分と古い石垣が現れる。穴太積みかな。少なくとも戦国時代以前のものだろう。かつては山全体が多くの僧が集う修行の地であり、数十の僧坊があったと聞く。



愛宕堂へと続く階段が現れた。なんちゅう長い階段だ。写真よりも実感としては何割増しかの急勾配に感じられる。何百段もありそうだ。とても登る気になれない石段だけれど、幸いなことにロープが張られて通行止めになっていた。



石段をバイパスするような巻き道を登り、ようやく尾根っぽいところに出てきた。大きな岩を乗り越えるようなところもあるけれど、ここまで登ってきた急坂と比べればどうってことはない。



などと思っていたら、とんでもない急坂が現れた。ロープ無しでは危なっかしくて登れそうにない。しかし肝心のロープも細く、体重を預け切るにはちょっと不安がある。



やれやれと思う間もなく、さらなる急坂が現れた。しかも長い。どうして写真ではこうも緩やかな坂に見えるのだろうか。これが噂に聞く「超急坂」らしい。ロープ無しの二足歩行ではとても登れない。息切れが酷いけれど、途中で休めるところもない。



長い時間をかけて、超急坂を攀じ登り、息も絶え絶えの状態で愛宕山(648m)に登頂。なぜかポツンと一脚置かれていたアウトドアチェアに座り込む。疲れた。これほどの急坂はあまり記憶がない。



頂上からの眺望は素晴らしい。が、どうしてピンボケなのだ。どうも最近スマホのフォーカスがバカになっているような気がする。丹波篠山市の中心部の向こうに聳える御嶽の山容だけは辛うじて見て取れる。



山頂での休憩の後、愛宕山の西側へと下山していく。下山路もそこそこの急坂なのだけれど、超急坂を登った後だけに、勾配の感覚が麻痺しているようで、緩坂に感じてしまう。



山を半分くらい下ったところで、ほのかな花の香りが漂ってきた。それと同時に黄色いミツマタの花が目に飛び込んできた。3つに枝分かれし、その枝すべてに花が咲くのでミツマタだ。漢字では「三椏」と書くけれど、他では見かけることがない難しい字だ。



凄い群生だ。登山路がミツマタで覆われているようだ。どちらかといえば淡い黄色で、さほど目を引く鮮やかさではないのだけれど、これだけ群生すると相当な迫力だ。



まさにミツマタのトンネルをくぐるように、登山道を下っていく。日曜日だというのに、他には誰もおらず、何万ものミツマタの花を独り占めだ。なんと贅沢なことだろう。



ミツマタといえばコウゾと並んで和紙の材料として有名だ。日本の紙幣はミツマタが含まれているから品質がいいとも聞いたことがある。英語でもpaperbush(紙の木)。花より紙の原料となる樹皮が注目されていて、これほど可愛い花を咲かせるとは長らく知らなかった。



丹波の里山に古くから生息しているかのように咲き誇っているけれど、実は和紙の原料として中国から伝えられたのが、わずか400年ほど前のことだという。要するに外来種だけれど、ここまで日本の風景や文化に馴染んだ花は多くないように思う。



最近亡くなったホトトギス主宰の稲畑汀子の句「三椏の花三三が九三三が九」を思い出す。自由律のような一見奇をてらうようなものではなく、俳句の保守本流(と勝手に思っている)のホトトギスの主宰である稲畑汀子らしからぬ句調なので記憶していた俳句だ。



三つに分かれたそれぞれの枝の先に小さな花弁が集まってまん丸い花となっている。見れば見るほど可愛い花だ。



兵庫県南部では雨の予報だったせいか、ハイカーの姿がほとんど見られないのだろう。丹波地方はギリギリ大丈夫そうだとやってきたけれど、降雨に逢うこともなく、ミツマタを楽しめたことは幸いだった。



名残り惜しいけれど、ミツマタ群生地をあとにして龍蔵寺へと戻っていくが、龍蔵寺に到着するまでの1㎞ほどもの道中ずっとミツマタの花がアチコチに咲き誇っていた。



龍蔵寺の門前にある大きな桜の木は、まだ蕾状態。さすがにミツマタと桜の双方を楽しむのは無理がある。丹波地方には気になっている桜の名所も多いけれど、来週末以降に再訪することになりそうだ。



激坂登りで体力的にはかなりキツかったけれど、歩き終わってみれば歩行距離は3㎞にも満たなかった。所要時間は2時間弱。