2022年12月24日
これまで何度も歩いた六麓荘登山道なのに、2年ほど前から道を間違うことばかりが続いている。分岐点など無かったはずなのに、記憶にある道とは違う酷い悪路を突っ切る羽目に陥るようになった。この謎を解明すべく国内屈指の超高級住宅街を抜けて登山口を目指す。
奥まった山麓に拓かれたこの町を歩く人はごく少ない。時折高級外車が通りすぎるばかりだ。最寄りのバス停から20分ほど登ったところにある豪邸に挟まれた細い路地が登山口。銀色のプレートに「六麓荘登山口」と書かれていたと思われる文字はほとんど消えている。
いよいよ六麓荘登山道を登り始める。序盤はどうってことはない道だ。しかし六甲山系登山詳細図では難易度高・登山道グレードC級・熟練者向けに分類されている道だ。ごろごろ岳への直登ルートとなるだけに、この先かなり厳しい急登が待ち構えていると記憶している。
だんだん心細くなる道を登っていくと鉄塔が現れた。見覚えが無い…。今日もまたおかしなところを歩いているようだ。どこでどう間違ったのか…。間違ったと判れば引き返すのが登山の鉄則なんだけれど、ここまで分岐があったようには思えない。
YAMAPには本来の六麓荘登山道は記載されていないけれど、ベースとなっている国土地理院の地図で破線で示された「徒歩道」を読み取れる。現在地は「徒歩道」のはずなんだけれど、落ち葉が積もる急坂の連続で、一般的には道とは呼びたくないところだ。
しかし徒歩道は苦楽園尾根まで続いているので、少々の難路であっても頑張って登り続ける。生い茂った樹木を掻き分けたり、岩を攀じ登ったりしながら急な斜面を苦労しながら進んでいくが、こりゃ無理だ、帰ろっかなぁ、と思い始める。
そんな時、眼下に苦楽園の街並みが見える断崖にやってきた。これは見覚えがある。2ほど前にも間違いなくここにやってきた。ここまでやってきた経路は多少違うようだけれど、その際も苦労して苦楽園尾根に登ることができた。行けなくもない道のはずだ。
しかし季節が違うのか、とにかく枯木の多さに辟易とする。登るために掴んだ木がいとも簡単にポキリと折れてしまうので要注意だ。さらに棘のある木や蔓が多い。うかつに触れようものなら、ひどい反撃を食らうことになってしまう。
YAMAPで現在地を確かめながら、少しずつではあるけれど苦楽園尾根に向かっていることは確認できるけれど、油断のならない難所が次々と現れる。
最後は道らしきものも見えず、やむなく藪を掻き分けて、苦楽園尾根の方向へと直登する。GPS無しではできないことだ。
やれやれ、ようやく苦楽園尾根にやってきた。途中赤テープがチラホラと見えたし、苦楽園尾根との合流地点の木にも赤いペンキが見られたので、この道を行く達者なハイカーもおられるのだろうが、ポンコツハイカーにとっては「道」でさえないとあらためて痛感する。
苦楽園尾根をごろごろ岳方面へと進んでいく。道を塞ぐように岩が積み重なっているけれど、六麓荘から登ってきた道と比べれば、どれほど楽な道かと思う。
苦楽園尾根に合流してから20分ほど歩いたところに、六麓荘登山口への道を示す案内標識がある。本来ならここに登ってこなければならないはずなのに、どこでどう間違ったのだろうか。
標高500mくらいにもなると、僅かではあるけれど雪が残っている。六甲山系でも雪が気になる季節になった。
ごろごろ岳(565m)。山頂碑は立派だけれど、周囲から突出していないため山頂感のない山で、登頂の達成感もあまりない山だ。山頂碑に立ち寄らず、そのまま通過するハイカーも多い。
苦楽園尾根を戻り、再び六麓荘登山口への案内標識があるところにやってきた。芦屋市が立派な標識を作っているけれど、かなりの急坂だったと記憶している。登ったことはあるけれど、急坂と判っているだけにこれまで下りに使ったことがない。
荒れ気味ではあるけれど、はっきりとした道が続いている。ストックを取り出して滑りやすそうな急坂に挑む。
樹々の向こうに芦屋の街並みや大阪湾が見えるところがたまにあるけれど、ほとんどの道では木々が深くて眺望を楽しめる道ではない。
ところどころ石段が置かれているところがある。相変わらず急な下りが続くけれど、ちゃんと整備されてくれている道だと感じながら歩いていることに安心感は増す。
薄暗く狭く急な道だが、芦屋市が立てている案内標識は、六麓荘登山口への道ばかりを案内している。でも間違いなく苦楽園に下りるのが一般向けだ。苦楽園が西宮市だから、芦屋市としては六麓荘への下山を案内するしかないのだろうか。市町村行政の悪いところだ。
徐々に下りも緩やかになってきて、余裕を持って歩けるようになってきた。あらためて周囲や道を振り返るが、記憶に残る六麓荘登山道と同じ風景だ。
ここが間違ったところのようだ。左前方に登山道が続いているのだけれど、右前方が開けていて、トレースもあるように見える。でもあらためて見れば、こんなトコで間違う人がいるのか?、誰だって左に行くだろう、と思いたくなるところだ。
右の青線が登りで使った道、左が下りの道。右には国土地理院の破線があるのに対して、左側の道には何の表記もない。2年ほど前からYAMAPを使い始めたことで、右側の破線ばかりを意識していたため、右寄りの道を選んで登っていたようだ。
長い間、不思議に感じていた六麓荘登山道での道迷いの謎をようやく解明でき、気分もよく六麓荘の豪邸街に戻っていく。
距離4.8㎞、所要時間3時間半。獲得標高は470m。間違った道と正しい道との間は100mほどしかないけれど、山の中では100mも変われば景色も地形も大きく変わってしまうものだ。