メンフィス散策

2019年3月9日(土)


テネシー州のメンフィスに立ち寄る。エルビス・プレスリーの生誕地として、そしてブルースの発祥地として有名な町だけど、個人的な興味の対象は、1にミシシッピ川、2に奴隷制・公民権運動、3,4が無くて、5に音楽といったところだ。



 あいにくの雨模様だが、二度と訪問する機会がないかもしれない街だけに、頑張って出かけることにする。ホテルの前の道には、3年ほど前に亡くなったブルース界のスーパースター、B.Bキングの名前が付けられている。



市内にはどことなく可愛い路面電車が走っている。停車場や街路樹や街灯もレトロでありながら清潔で整然としていて、落ち着きのある町並みが続いている。古い映画で見たような風景だ。



まずは、ミシシッピ川東岸の中州にあるに向かう。中州に渡るための500mほどの歩道橋を歩いていく。ご丁寧なことに歩道橋には屋根まで付いているのだけど、それどころか、この短い距離のためにモノレールまで設置されている。



マッドアイランド・リバーパークは、ミシシッピ川に関するテーマパーク。特に見どころは、2000分の1(だったかな)スケールのミニチュアミシシッピ川。ミシシッピ川の湾曲や川幅・水深などを体感しながらウォーキングを楽しむことができる。



すぐ横には、本物のミシシッピ川が流れている。地図で見ると川幅は1km余りと意外にも狭い。もっとも濃い霧がかかっていて、対岸のアーカンソー州はまったく見えない。



10分ほどのウォーキングで、河口の町、ルイジアナ州のニューオリンズまでやってきた。不思議なことに下流も上流も川幅はさほど変わらないように思える。



結構楽しむことができたマッドアイランド・リバーパークなんだけど、実際にはほとんど人がいない・・・。朝が早いからなのかぁ?ミュージアムも売店も閉まっているし、トイレまで施錠されている。モノレールも運行していない。ひょっとして廃業しているのかもしれない・・・。



 ダウンタウンに戻り、ビールストリートにやってきた。ブルースとかゴスペルとかの発祥の地、メンフィスのなかでも一番の繁華街らしい。昼間というのに、軒を連ねた多数のライブハウスが賑わっている。夜に再訪すると、大変な活況を呈していた。まあ本音を言えば、とんでもなく騒がしかった、ということなんだが・・・。



黒人のミュージシャン風の男性がギターを背に犬を2匹連れて歩いている。メンフィスで何十枚も写真を撮ったけど、これが最もメンフィス感が漂う写真のように思っている。



あまり興味はなかったのだけど、雨宿りを兼ねて、ロックンソウルミュージアムに入館。受付で写真を撮ろうとすると、陽気な受付嬢が気を利かして机の下に潜り込んでくれた。あるいは単に写真に撮られたくなかっただろうか。



館内は、メンフィス音楽の歴史がわかりやすく展示されている。ミシシッピ川に面して綿花取引拠点や奴隷市場があったというメンフィスの歴史と、ブルースやソウルミュージックの発祥が強い因果関係があることを理解できた。この町には、音楽関係を中心に随分と沢山の博物館があるけど、観光客の多くは、昼は博物館、夜はライブ音楽を楽しんでいるようだ。



ビールストリートの近くには、ギブソンのギター工場があるんだけど、内部はほぼ空っぽになっている。最近経営不振で破産法適用を申請したといった話を聞いたけど、どうなっているのだろうか。



ビールストリートには、御存知エルビスプレスリーの銅像が立っている。没後40年以上経つというのに、未だにメンフィスの土産物店ではプレスリーグッズが多く並んでいる。



ダウンタウンを南に歩いていくと、公民権博物館がある。黒人解放運動を指導したキング牧師が暗殺されたモーテルが博物館として当時の姿のまま保存されている。キング牧師が撃たれたというバルコニーには今も花輪が飾られている。




どんどん南に歩いていく。このまま南にあと20kmほども歩けばミシシッピ州に突入するはず。それも魅力的なんだけど、今日の目的はアーカンソー州だ。



さあ、メンフィス観光の大目玉、ビッグリバー・クロッシングに挑む。ミシシッピ川に架かる最も長い歩ける橋として2年ほど前に完成したものだ。しかし長さは2km弱でしかないようだ。明石海峡大橋(4km)くらいはあると思っていたのだけど。



歩行者&自転車専用の橋が鉄道橋に付随した形で設置されている。さらにその横には別の鉄道教、そして道路橋と3本の橋が並んでいる。



なんだか背筋がゾクゾクとする。ミシシッピ川を渡っているという感動もあれば、まるで先の見えない霧のなかに一人突っ込んでいくという不安もあって、とても不思議な感覚だ。



おお、ついに州境の表示が現れた。思ったよりショボイぞ。STATE LINEと書かれた20cm幅程度の青いパネルが貼り付けられている。



道路橋を見ると、大きなARKANSAS州へのウェルカムボードが設置されている。歩道橋にもあれくらいの看板が欲しかった。



初アーカンソーに心躍らせていたけど、アーカンソー州に近づくにつれて、どうも水嵩が異常に高いことに気付く。川の中に電柱が立っているはずがない。



いよいよ橋を降りてアーカンソー州上陸、と思ったところで、さらに驚かされた。橋から降りる道が完全に水没しているではないか。これって洪水じゃないか。こんなこととは知らずに、勝手もわからない外人が霧と雨の中を州境を超えたと喜んで歩いてきたとは、何とも呑気な話だ。テネシー州側には何のアラームも出ていなかったように思うんだけど、道理で人の姿をほとんど見なかったはずだ。



霧のなかの鉄橋を走る列車は何とも幻想的。と魅入っている場合ではない。これ以上水嵩が増えたらどうなるのだ。行き止まりになったアーカンソー州の端っこから、急いで来た道を戻るほかない。



せっせと歩いて、再びメンフィスのダウンタウンに戻ってきた。なんだかオンボロな馬車が走っている。ところが夜になって再び見ると、華麗な電飾をつけて、おとぎの国の馬車かと思うまでに変身していた。



リバークルーズの船着き場にも立ち寄ったけど、あいにくの天気で人の気配がない。運行もお休みになっているように見える。



二度と訪問する機会がないかもしれないと、悪天候のなか、ミシシッピの渡河を含むウォーキングを強行したけど、還暦オーバーにはちょっと無茶だったようにも思える。もっとも18km歩いたけど、疲れはほとんど無い。



リスクの多いウォーキングとはわかっていても、いろいろなものに巡り合うことによる充実感が勝ってしまう。最近、残りの人生に大した期待もできなくなって、逆に無茶をするようになった。ちょっと危ない傾向だ。