6月から北神急行が神戸市営地下鉄に事業譲渡された。新神戸と谷上のわずか1駅分の鉄道とはいえ、その全線は六甲山を北から南に突ききる7㎞以上のトンネルだ。北神急行の市営化を記念して、電車ではわずか7分という谷上~新神戸を徒歩で歩いてみよう。
スタートは六甲山系の北側にある谷上駅。神戸電鉄有馬線との乗換駅になる。妙な雰囲気だが、駅舎内にある居酒屋の横がハイキング道(山田道)への通路になっている。
しかし谷上駅を出て南に5分も歩けば、あまり人とも出会うことのない登山道になる。
谷上駅の標高が既に240mほどもあるので、六甲山への登山ルートの中でもかなり緩やかなうえに山田川に沿って森林植物園へと登っていく道は涼し気だ。大した渡渉ではないけど、最近バランスを崩して川に落ちてしまうことが続いているので注意して進む。
山田道を北上し、森林植物園に到着。広大な森林植物園のなかを突き進むルートもあるが、今日は外周道路を経て又ヶ谷方面に向けて進む。
山田道もそうだったけど、最近涼し気な渓流沿いの谷道ばかり歩いているので、尾根道を歩くのが新鮮だ。
気分良く尾根道の軽いアップダウンを楽しんでいたのも束の間、又ヶ谷の谷底に向けて急坂を下っていく。また谷道だ。
谷道の厄介なところのひとつは、六甲山系におそらく百はゆうに超えるとも思えるほどに造られている砂防ダム。砂防ダムの度に砂防ダムの堰堤まで上り、そしてまた谷道に下りていかねばならない。
トゥエンティクロスにやってきた。明治時代に六甲山登山を楽しんだ在留外国人による命名だろうが、文字数が多すぎて標識のバランスが悪い。「二十渉」と和訳?された非公式な表記も目にするけれど、確かに漢字三文字くらいが丁度いい。
なんとトゥエンティクロスの入り口に「あじさい広場付近は、斜面崩壊のため道が無くなり落石等で危険」との注意勧告が掲示されている。2年ほど前にそんな話を聞いていたけど、その際の崩落がまだ修復されていないのだろうか…。
まあ、崩落個所の手前まではトゥエンティクロスを進むことにしよう。20回渡渉を繰り返す道ということからの命名だけど、誰が平坦な石を川に並べてくれたのだろうか。ありがたいことだ。
注意書以降、たったの1回渡渉しただけで、迂回路との分岐点にやってきた。注意書には「通行止」とは書いてなかったよなぁ…、とも思ったけど、低技量のハイカーが無理に挑むようなものではなさそうだ。ここは自重して川を離れて山側へ迂回しよう。
渓流に沿ってダラダラと下っていくつもりだったのに、急坂をよじ登って山側に迂回する。急に疲れが噴き出してきた。
高雄山の山頂を経由するのが地図上では近道なんだけど、注意書では山頂を巻くようにさらなる遠回りを指示している。分岐点の標識もいずれの道も市ケ原に通じるころが示されているけど、ここは自重に自重を重ねて安全そうな森林管理歩道を進むことにする。
蛇ヶ谷にやってきた。気のせいか薄暗くて湿っぽく感じる。ここで道鏡の刺客に襲われた和気清麻呂が大龍に助けられたとの説明板がある。蛇とは関係の無さそうな伝承だ。となると蛇ヶ谷という地名は蛇が多いことに由来するのだろうか。つい速足になってしまう。
蛇ヶ谷を抜けて、見慣れた六甲山縦走路に出てきた。随分と遠回りをして市ケ原に到着。久しぶりに川を渡る。
市ケ原からどんどん下って、布引ダムにやってきた。このあたりには断層が見て取れるところが多い。ダムにしても、地下を走る自動車道にせよ、断層の傍に重要インフラがあるんだけど大丈夫なんだろうか…。
布引ダムの堰堤、五本松堰堤だ。1900年竣工ということだけど、老朽化は全く感じられない。重厚感と風格のある堰堤だ。
頭上をロープウェイが行き交う。布引ハーブ園と新神戸との間を結んでいるものだ。
布引公園内の峡谷に架かる猿のかずら橋。徳島祖谷渓のかずら橋をオマージュして造られたものだけど、実態は吊り橋ではない。鉄骨コンクリート製の橋に、蔦や木の皮を巻き付けた装飾が施されている。
神戸の街並みがすぐそこに迫ってきた。下山するまであと10分ほどだろうか。しかしここから新神戸駅まで、見どころ満載の美しい光景が続く。
すぐそこが市街地、というところで布引の滝が登場する。これは雄滝だ。硬そうな岩肌を雄々しく水が流れ落ちている。
さらに坂道を下っていくと雌滝が現れる。雄滝と比べるとやや小ぶりだけれど、深緑のなかとても清々しい水流だ。こんな素晴らしい風景まで新幹線駅から徒歩数分だ。新神戸駅が美しい自然と賑やかな街のギリギリの境界線上に造られていることが判る。
新神戸駅に到着。新幹線に乗っていると気づかないけど、ここは生田川の上に架かる橋上駅だ。なんと新幹線プラットホームの真下では、布引の滝からの清流で水遊びを楽しむことができるのだ。今日も何人かの若者が水着で遊泳していた。
本日の歩行軌跡。11㎞の歩行距離だけど、標高が200mも異なる新神戸と谷上のどちらからスタートするかでコースの厳しさは大いに変わる。今日は谷上スタートでかなり楽な山行だったけど、それでも北神急行の何十倍もの時間が掛かったことは言うまでもない。