日生諸島(岡山)島めぐり

2020年3月9日


岡山県の日生(ひなせ)を訪問する。兵庫から県境を越えてすぐのところだけど、長い時間電車で揺られて、ちょっとした旅気分だ。海とみどりと炎(焼き物)のまち、とあるが、今日のメインは「海」。日生から橋を渡って行ける2つの島を歩き回ってみよう。



JR赤穂線で岡山県最初の駅、寒河駅で下車。「そうご」と読む難読駅だ。単線、山沿い、無人駅。かなり鄙びた感じが漂う。海が近いとも感じられない。



寒河駅で降りた目的は、ここに大人気のカキオコの店があるからだ。カキがたっぷり入ったお好み焼きを目当てに、3時間くらいは平気で待つ人たちが集まると聞く。うまい具合に電車の到着時刻が、開店時刻の少し前。まだ人はさほど多くない。



幸い、開店と同時に最後のひとりとして入店できた。一枚に牡蠣が10個以上入っている。しっかり焼いているので牡蠣のボリュームは小さくなるけど、どこを切っても牡蠣が出てくる。半分がソース味、もう半分が塩味になっているので、味に飽きることなく一枚をものの数分で平らげてしまった。



カキオコも堪能し、ここからがウォーキングの本番だ。国道250号線をテクテク歩いて、一駅先の日生まで歩いていく。どうしたことか、ミラーの背がとても低い。それにバス停の標柱も低いのだ。これが岡山流なのだろうか。



日生駅前に「妻恋ひの 鹿海こゆる話聞き それかと見れば 沖の鶴島」という与謝野晶子の句碑が建っている。妻と離れ離れとなった牡鹿が海を渡るという話って、日生にもあるのだろうか。姫路の妻鹿や男鹿島にも同じような伝承はあるのは知っているけど。



小豆島行きのフェリーが発着する日生駅前港の向こうに楯越山が見える。海に突き出した半島状の山で、頂上からの景色は絶景とのこと。架橋されている島を歩き回る前に、まずは楯越山に登ってみることにする。



楯越山をよく見ると、山肌の樹木を伐採して、「ひ・な・せ」の三文字が作られている。山の標高から推し量って、一文字20m角の大きさはありそうだ。


日生駅から、楯越山の頂上に向けてゆっくりと登っていく。山の中腹からちょうど小豆島行きのフェリーが岸壁を離れていくのが見える。小豆島までの所要時間は1時間ほどだという。



頂上への道は舗装された自動車も走る道。歩いている人は他に誰も見当たらないけど、結構な台数の車が追い越していく。



日生には2つの港がある。ひとつはフェリーが出る日生駅前港、もうひとつが日生港。こちらは小型船中心の昔からの港のようだ。楯越山からは西側にある日生港の様子も手に取るようにわかる。



東側に目を転じると、本土と鹿久居島との間を繋ぐ橋を見渡すことができる。この後、山を下りて鹿久居島、さらにその先橋が繋がっている頭島まで歩いていく予定だ。これは楽しそうなウォーキングになりそうだ。



観光地であるとともに、付近の人たちの憩いの場にもなっているようだ。丁度車で簡単に登って来れることもあって頂上には開花したばかりの桜や瀬戸内海の景色を楽しむ人たちが多くいる。



山を下り、日生駅に一旦戻った後、さあ鹿久居島に向けて橋を渡り始める。この橋の名前が「備前♥日生大橋」。♥(ハート)をどう読むのかが判らないが、これが正式名称らしい。行政が名付けたとは思えないほどの凄いキラキラネームにびっくりする。



橋の上からは島々に囲まれた静かな海と、そこに生きる人々の営みが見て取ることができる。かつて瀬戸内を席捲していた村上水軍を思い起こしてしまうほどに、牡蠣筏がズラリと並んでいる。牡蠣が育つまで1~2年はかかるという。



岸には抑制棚と呼ばれる稚貝用の施設も見える。潮の干満を利用して、稚貝にプランクトンを食べさせたり、陽に当てて貝殻の開閉をさせることで稚貝を鍛えるのだそだそうだ。この過程を通過できた稚貝だけが牡蠣筏へと移されるという。



鹿久居山を貫く道路。歩道はないけど、ほとんど車が走っていないので気分よく歩ける。1000万平米とゴルフ場10個ほどの面積を有しながら、人口は10人に満たないという。古代から大量に棲みついている鹿が農作物を食い荒らしてしまったらしい。



散々苦労した結果、唯一栽培に成功したのがミカンだったそうだ。道路脇に多数の旗・幟が現れる。ミカン狩りだけでなく、ここで栽培しているミカンを用いた様々な商品を販売しているようだ。



鹿久居島を縦断し、その南の頭島に向かう。鹿久居島と頭島を繋ぐ橋の入り口に、「往来あかん やめなはれ」との看板が立っている。どうやら鹿やタヌキに向けての警告のようだが、彼らに判るはずはない…。地域が生態系を守るために種々取り組んでいることをアピールしているのだろう。頭島側には「気ぃ付けて帰りなはれ」とある。



鹿久居島より沖合にあり、面積もかなり小さいのに頭島は人口300人ほど。それだけに鹿などの被害には敏感なのだろう。島の中央小高い丘に展望台がある。山の名前は「たぬき山」。童話の世界のようなネーミングに心が和む。



大した高さではないけれど、展望台からは広い眺望が楽しめる。小豆島の島影もはっきりと見える。直線距離で10kmくらいのようだ。



残念ながら頭島より先は歩いて行くことはできない。バスもあるけど、1日4便の定期船で日生に戻ることにする。料金は770円。前を行く女子高生?3人組は高すぎると言って乗船しなかった…。バスなら200円なんだけど、歩いた道をそのまま戻ることになる。



結局ほかに乗客もいないまま、船は出航。居心地のいい客室もあるんだけど、天気もいいことなのでデッキの上で汐の香りを楽しむ。日生に着く前に、大多府島と鴻島に立ち寄る。



大多府島。日生諸島では最南端の島だ。それだけに、古くから海上交通の要衝として番所なども置かれていたらしい。海沿いには奇岩も多く、散策するには楽しそうな島だ。



約45分の船旅で日生港に戻る。日生港から日生駅まで1km弱の道を歩いて帰路につく。本日の移動軌跡。13km地点から23km地点までの10kmは船で移動した軌跡だ。歩行距離は合計11kmほど。