2020年8月30日
最近「残丘」という言葉を覚えた。浸食から取り残されて平原上に孤立した丘陵のことだ。西宮の甲山も残丘らしい。今日は姫路市とたつの市に挟まれた小さな町、揖保郡太子町の「残丘」を巡ってみることにしたい。
太子町って、JR山陽線も山陽新幹線も通ってはいるけれど駅が無い。姫路市の西端になるJR網干駅からスタートだ。北に数分も歩けば太子町に入ることができる。
住宅街の端っこにある登山口の階段から、ひとつめの残丘、朝日山を目指す。昨日はわずか7㎞ほどしか歩かなかったので、今日は歩くぞ、と意気込んでやってきたものの、早くも陽射しの強さにウンザリする。
標高はわずか88mのはずだけど、頂上がやけに遠くに感じる。朝日山の向こう(写真左奥)には、続いて登る予定の壇特山が控えている。
頂上にある大日寺までは車でも行けるようだけど、さすがに山道を歩いていくことにする。残丘って堅牢な岩山であればこそ、浸食に耐えて残っているものだと思っていたけれど、思ったほどの痩せ山ではない。雑木林とはいえ陽射しが遮られた林道が続く。
朝日山の山頂にある大日寺。珍しい涅槃仏が横たわっている。その奥に隠れて目立たない石仏があるが、龍野城主・赤松政秀が寄進したものだそうだ。大軍を率いながら若き日の黒田官兵衛に大敗北したことで知られる人だ。
朝日山から一旦市街地に下り、続いて壇特山登山に取りつく。こんな低山で「縦走」なんて言ったら大失笑されるだろうが、へっぽこハイカーにとって猛暑日の山登りは気合が必要だ。登山口には杖が何本も置かれているけれど、そんなに厳しい登りなのだろうか…。
壇特山の中腹には、3世紀前後の古墳がいくつも見られる。石室が残っているものもあれば、中には前方後円墳などと説明があっても、どこが方なのか円なのか、いやどこが古墳なのかさえ判らないものもある。
大したことはなかろうと尾根道を登り始めたものの、予想以上にバテてしまう。確かに坂は結構キツイけど、あまりの暑さのせいか、体調不良なのか、あるいは体力不足なのか…。まるで水浴びをしたかのように全身が汗ビッショリだ。
山頂近くの展望台で休憩。前方に見えるのが朝日山、壇特山とともに太子町の三残丘のひとつに数えられる立岡山だ。高所から眺めると残丘がどういうものがよく判る。真っ平な太子町の市街地のなかに孤立している。
まさかのバテバテ状態で壇特山の山頂にやってきた。標高はたったの165mしかないのに…。頂上にある巨岩には、聖徳太子の馬の蹄跡と伝わる穴がある。法隆寺の荘園だった太子町は聖徳太子伝説が多く伝わるところ。でもここまで太子がやってきたのだろうか。
山頂で長い休憩を取った後、山の西側へと下っていく。頂上から順に、コナラ・アベマキ、アカマツ・モチツツジの群生地が続く。
山を下りながら、時折風を切るような音と振動を感じていたのだけれど、なんと山陽新幹線のトンネルの真上を歩いていたことに気づく。壇特山から立岡山へと新幹線が通り抜けていくのが見える。
緑の豊かな山だけれど、岩もゴロゴロと転がっている。相当硬い地質でないと残丘としては存在しえないと思うのだけれど、この山は岩山の上にいい具合に緑を育む土が被っているのだろうか。
続いて立岡山に登り、太子町三残丘を制覇するつもりだったけれど、殺人的とも思える猛暑に気持ちは萎えてしまう。体力消耗も激しくもはや超低山といえども登りたくない…。予定を変更して、平地歩きで行くことができる気になるポイントを巡ることにする。
斑鳩寺など、既に訪問した太子町の中心部を避けるように北に向かう。太子町の運動総合公園が広がっている。箱ものは最低限のものしかなく、陸上グランドやテニスコートなどがゆとりのある敷地を贅沢に使用して設置されている。
総合公園の傍にあるのが、聖徳太子の投げ石とも言われる「鵤荘(いかるがそう)牓示石(ぼうじいし)」だ。聖徳太子が壇特山から弾き飛ばしたとも伝わるが、鵤の荘園の境界を示す石のようだ。こんな石が太子町に6か所ほどあるようだ。
牓示石のすぐ傍にある自販機には、太子町のマスコットキャラクターの「たいし君」と「あすか姫」が大きくプリントされているけれど、最近は新キャラクターとして「ぼうじぃ」が誕生したようだ。牓示石をモチーフにしたものであることは間違いない。
とにかく電車の駅もないし、バスの便も悪いので歩くしかない。JR山陽本線からは離れすぎたので、JR姫新線方面を目指す。太子竜野バイパスを潜って、北へと向かう。
太子町の北部では、めだかの養殖がおこなわれているようだ。様々な種類のめだかが販売されている専門店も見られる。めだかって、1年中売れるものなんだろうか…。
北へ北へと歩いてきたのは、以前から気になっていた破盤神社の割れ石を訪問するため。太子町を北にわずかに突き抜け、姫路市に入ったところだ。神功皇后が放った矢が、この巨岩を3つに割ったと伝わる。
幅、高さ、奥行きのそれぞれが10m近いと思われる巨岩の裏側に回りこむと、3つの割れていることがよく観察できる。
割れ石は神秘的とさえ映る深い竹藪のなかにある。しっかりした道もあるので、この竹山を抜けてJR姫新線の太市駅まで行けるような気がして進んでいったところ、坂はきつくなって道は無くなり、蜘蛛の巣だらけになって慌てて引き返す…。やめときゃ良かった。
姫新線の太市駅に到着。姫路からわずか4駅だというのに、なんとも長閑な風景だ。だ~れもいないののでホームのベンチで汗まみれの服を着替える。
予定していた立岡山登山を回避したが、結局12㎞ほども歩くことになってしまった。予定どおりの三残丘制覇ウォークの方が楽だったよなぁ…とも思うけど、破盤神社の割れ石は炎天下を長距離歩いて訪問する価値があった。